糸師凛、勉強はレッドカード【3】

82話 お返し ページ13

昼休み、少し肌寒い一階ホールで昼食をとっていると潤が大きくため息を吐いた。

いつもならAより先に食べ終わっているなのに、箸を動かしていた手は止まっていて、弁当の中身はあまり減っていない。

Aは最後の一口を飲み込むとあからさまにブルーになっている潤に尋ねる。

「どしたん話きこか？」

「ありがたいけど微妙だな、その言い方……」

潤はもう一度ため息を吐くと俯いていた顔を上げ、深刻そうに話し出した。

「チョコ渡すタイミングがわかんねえ」

「は？」

お前は何を言っているんだ、と思わず突っ込みたくなるのを抑えてAはふと今日がホワイトデーであることを思い出す。

そういえばクラスの女子たちが互いに手作りらしきチョコレートを交換しあっていたような気がする。

潤には自慢の彼女がいるし、バレンタインデーのお返しといったところか。

自分には無縁すぎるイベントにAは力なく笑った。

「俺にはなんも言えねえよ」

「だよなー。Aだもんなー」

「失礼だな」

「どーしよ……。ガチで緊張する……」

ぐでんと無気力に机に突っ伏してまた大きくため息を吐く。

チョコレートを恋人に渡すくらい何てことないだろう。

恋人だから逆に緊張してしまうのか。

いくら親しい友人といってもやはりAには関係のないことなのと、男女交際をした経験がないので悩みに押し潰されている潤をただ眺めることしかできない。

どうしようもないので白いプラスチック袋から菓子パンを取り出した。

「俺も渡さなきゃだなー」

「例の匿名女子わかったのか？」

「匿名女子、ねえ……」

Aは意味ありげに笑うと六個目のパンの袋を開けた。

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