76話 籠の鳥 ページ49
「手癖、ずいぶんと悪いんじゃないの」
「なにが?」
大広場に設置された椅子に座ってAを待つこと数分。
おもむろに凪が口を開く。
今までゲームに没頭していたくせに意味がわからないこと言うので玲王はきょとんと目を丸くした。
スマホから目を逸らすことなく凪は呆れたように言う。
「それだよ、それ。そのヘアピン。Aがつけてたやつでしょ」
「ああ、これな」
やっと気づいたかのように手の中にあったヘアピンをテーブルの上に置いた。
「返しに、いかないとな」
見なくてもわかる。
目の前でしたり顔で頬を綻ばせている姿は容易に想像できる。
愉快そうに指先でヘアピンを弄ぶしなやかなその手つきだって想像できる。
凪には何がそんなに楽しくてわざわざそのようなことをするのかわからなかった。
全ての物事が面倒くさいという考えに辿り着く凪にとってこの行動は理解しがたい。
「どうやったの?」
「企業秘密〜♪」
「なにそれ」
だが、玲王が何をしようと関係ない。
だって、自分は玲王ではないのだから。
所詮、他人事である。
玲王は独り言のように呟く。
「俺さ、横取りされんの嫌なんだよね」
「え、なに。いきなり」
「まあ聞けって」
笑って玲王は言ったが、その目は笑っていなかった。
宝石のような双眸の奥には静かに何かが揺らいでいる。
その揺らいでいる何かの正体はわからないが、歪んだ形をしているのは確かだ。
「最初に見つけたのは俺なのに、まるで自分が一番知っているかのような勘違いが嫌いなんだ。全てをさらけ出しているわけでもないのに」
愛おしそうにヘアピンを触っていた手が止まったかと思えば、力を入れているのか指先が赤くなり、その力に耐えきれなくなったヘアピンは嫌な音を立てて割れた。
ヘアピンはただのプラスチックの塊と化す。
凪はそれを見ても特に何か思うわけでもなく、ヘアピンが割れたという目の前の情報だけで完結させた。
玲王はそれをしばらく見つめ、再び手の中に包む。
「返しにいってくるわ、持ち主に」
「うん。いってらっしゃーい。あ、なんか美味しそうなやつあったら買ってきて」
「おう」
いつになく玲王は楽しげに校舎内へと足を進めた。
562人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
殺痲(キルマ)(プロフ) - 由良の門をさん» コメントありがとうございます!彼は人の間に入ってもみくちゃにされるのが得意なのでもしかしたら今後サンドバッグとして活躍するかもしれません笑 (6月5日 9時) (レス) id: 57b9dc3a01 (このIDを非表示/違反報告)
由良の門を - モブ男かわいいです笑笑彼の活躍を期待してる自分がいる (6月1日 22時) (レス) @page9 id: 2f071b2218 (このIDを非表示/違反報告)
殺痲(キルマ)(プロフ) - ねぎさん» コメントありがとうございます!新しい何かがほしいと思い爆誕したのがモブ夫でした…。キルマの作品オリキャラが出しゃばってくることが多いので楽しんで頂けて何よりです!モブ夫の活躍に乞うご期待ですね! (2023年4月9日 12時) (レス) id: 6f6fe81f90 (このIDを非表示/違反報告)
ねぎ(プロフ) - モブ夫を待ってる自分がいる、、笑。あひょ本も最高でした!笑 (2023年4月9日 3時) (レス) @page50 id: 37620205ea (このIDを非表示/違反報告)
殺痲(キルマ)(プロフ) - 龍さん» コメントありがとうございます!玲王のやつはちょっと心配だったので気に入ってもらえて嬉しいです🥰応援ありがとうございます!! (2023年3月6日 21時) (レス) id: ff5faac6c3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:殺痲(キルマ) | 作成日時:2023年2月9日 18時