58話 嫉妬するわ ページ29
今、目の前にいる男は何と言ったのか。
助けろ、と言ったのか?
「え、な、はい?」
理解が追いつかないまま腕を引かれ、どこへ行こうというのか歩みを進める。
「ちょちょちょ!!凛待って!!俺焼きそば買いたいの!!」
無理矢理引きずられ、Aも何をどうすればいいのかわからなくなり、混乱状態でどうでもいいことを凛に訴えた。
「そんなの今どうでもいいだろ」
「凛にとったらどうでもいいことだろうけど!!俺は真剣なの!!いきなりなんなのさ!!」
凛の無愛想の態度にはもう慣れたかと思っていたが、それは自分の思い上がりだったらしい。
何を考えているのか全くわからない。
言葉足らずもいいところ。
少女漫画の俺様系男子も腰を抜かすほどだ。
「あのう……助けてはあげるけどせめて何から逃げてるのかは教えてほしいな〜……?」
しばらく凛に連れられて人気のない空き教室まで来ると、今まで強く掴んでいた手を離した。
凛はAの顔を見ることなく独り言のように言う。
「お前、どうせ一人だろ」
「うん。ムカつくけどぼっちです」
苛立ちでぴくりと痙攣する口角を元に戻して平然を取り繕う。
「それとなんか関係あるの?」
そう尋ねると、必死に声を張っているが、紡いだ言葉が少し震えていて、らしくない弱々しい声が返ってくる。
「花火を一緒に見てくれだの、話があるから花火が上がるまで付き合ってくれだの、花火花火花火、馬鹿の一つ覚えみてえに言い寄られて迷惑してんだよ」
たかが炎色反応に騒ぎやがって、と捨て台詞のように言うと深くため息を吐いた。
潤が話していた文化祭のジンクスを思い出す。
こんなビッグイベントに女子が凛に寄り付かないわけがない。
様子を見るに、うんざりするほど誘われてAに助けを求めたのだろう。
なんて贅沢な悩み。
哀れみよりも僻みが勝る。
そして「どうせ一人だろ」と言われた理由も納得がいく。
大方、Aが一人なのを見込んでうざったらしく寄り付かれないようAに頼んだのか。
それ以前に一人でいることが確定なのが腹立たしい。
「なるほどねー。喧嘩売られてるような気がしてならない。ほんと贅沢者だよ」
死んだ魚の目をしたAの表情は凛の視界に入ることはなかった。
凛が花火をただの炎色反応と言ったとき、凛と同じ思考回路をしているのはどうなのだろうかと、複雑な気持ちになったのは言うまでもない。
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殺痲(キルマ)(プロフ) - 由良の門をさん» コメントありがとうございます!彼は人の間に入ってもみくちゃにされるのが得意なのでもしかしたら今後サンドバッグとして活躍するかもしれません笑 (6月5日 9時) (レス) id: 57b9dc3a01 (このIDを非表示/違反報告)
由良の門を - モブ男かわいいです笑笑彼の活躍を期待してる自分がいる (6月1日 22時) (レス) @page9 id: 2f071b2218 (このIDを非表示/違反報告)
殺痲(キルマ)(プロフ) - ねぎさん» コメントありがとうございます!新しい何かがほしいと思い爆誕したのがモブ夫でした…。キルマの作品オリキャラが出しゃばってくることが多いので楽しんで頂けて何よりです!モブ夫の活躍に乞うご期待ですね! (2023年4月9日 12時) (レス) id: 6f6fe81f90 (このIDを非表示/違反報告)
ねぎ(プロフ) - モブ夫を待ってる自分がいる、、笑。あひょ本も最高でした!笑 (2023年4月9日 3時) (レス) @page50 id: 37620205ea (このIDを非表示/違反報告)
殺痲(キルマ)(プロフ) - 龍さん» コメントありがとうございます!玲王のやつはちょっと心配だったので気に入ってもらえて嬉しいです🥰応援ありがとうございます!! (2023年3月6日 21時) (レス) id: ff5faac6c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:殺痲(キルマ) | 作成日時:2023年2月9日 18時