糸師凛、勉強はレッドカード【2】

48話 チョコレート ページ15

「Aくん！」

移動教室の帰り、Aは女生徒に声をかけられる。

普段、話さない生徒なので不思議に思う。

「なに？」

下を俯いて吃り、後ろ手に組んで恥ずかしそうに体を揺らすその姿は実に可愛らしかった。

自分より一回り背が小さい彼女のつむじを見る。

「あの、これ……」

柔らかな手から渡されたのは濃い桃色にラッピングされた四角形の箱だった。

飾りには黒いリボンがつけられている。

その箱を見て、一瞬で理解する。


そうだ。今日は2月14日。

バレンタインデーだ。


Aはこの甘美なる日が嫌いだ。

チョコレートごときで舞い上がるのが嫌いなのだ。
恋人同士なら尚更。
別に僻んでいるわけではない。決して。

だが、それはチョコレートをもらえなかったからであって今日は違う。

確かに渡されている。
Aに差し出されている。

もしかして本命？
いや、本命じゃなくてもいいけど。

友チョコだろうと義理チョコだろうと何でもいい。

ただ、女子から自分に対して渡されたという事実があれば十分なのだ。

「マジで！？ありが＿＿＿」


「凛くんに渡してほしいの……」


出かかった言葉を嚥下する。

ですよね。だって俺だもの。
俺にチョコレート渡してくれる子なんていないですよね。わかってますよ、はい。

「ダメ、かな……」と首をこてんと小さく傾け、上目遣いをする。

その姿が小動物のように可愛くて、もちろん断れるはずがなく、苦い味に耐えてAは承諾した。


「おっけー！渡しとくわ〜」

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