46話 こんにちは ページ12
向かったのはAの家だった。
先程のカフェに戻って雨がやむのを待ってもいいが、今いる場所から離れていてどっちにしろ濡れる。
ここからじゃAの家が近いし、雨宿りをするに最適だ。
「さっっむ……」
制服の繊維一本一本に雨が染み込んでいすっかり重くなっていた。
体も体温を奪われている。
玄関の乾いたタイルに小さな水溜まりができた。
瑞々しさを帯びた艶やかな黒髪の毛先からは一定の間隔で水滴が落ちている。
凛は鬱陶しげに前髪をかきあげた。
「ごめん。今タオル持ってくるからちょっと待って___」
中が濡れたローファーに手をかけると見慣れない靴が目に入る。
薄桃色のパンプス。
どう見ても母が履くようなものじゃない。
それに、さっきから少し焦げ臭い匂いに混じって甘い匂いがする。
訝しげにAは声を張った。
「ねーちゃーん?」
廊下を走るけたたましい音が近づいてくる。
「あれ、Aだ〜!元気してたか?」
「元気〜じゃねえよ。何でいんのさ」
「ちょっとね〜近くに来たから久しぶり寄っていこうかと!ところで……」
その子誰?と興味津々に尋ねる。
面食いの姉らしい質問だ。
「誰って友達の、凛……くん?」
疑問形になったのは改まって言うのが気恥ずかしくなったからだ。
肯定するかのように凛は控えめにくしゃみをした。
雨に降られたことを察した姉はAに尋ねる。
「あ、タオル持ってこよっか?」
「でっかいやつ二枚ね」
_________
「なんか……ごめんね」
脱衣所のドア越しにAは消え入りそうな声で言う。
濡れた制服のままでは流石にまずいのでAの服に着替えさせている。
「何が」
ドアを挟んでいるせいか、くぐもった声が返ってきた。
その声音はいつものように落ち着いている。
「姉ちゃんうるさくね?」
「別に。お前、姉貴いたんだな」
「歳はちょっと離れてるけどね」
服と肌が擦れる音がドア越しに聞こえる。
そろそろ頃合いかと思い凛に尋ねる。
「ねえ、どう?サイズ大丈夫そ?」
「丈が合わねえ」
「え」
これでも一応大きいサイズを用意したのだが。
Aも170センチを越えているとはいえ、凛との身長差は結構ある。
そこは仕方ないが、「丈」と言われたのがぐさりと刺さって虚しくなった。
何も言わないAに凛は追い打ちをかけるようにもう一度繰り返す。
「丈が合わねえ」
「……下半身すっぽんぽんでいろよ」
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殺痲(キルマ)(プロフ) - 由良の門をさん» コメントありがとうございます!彼は人の間に入ってもみくちゃにされるのが得意なのでもしかしたら今後サンドバッグとして活躍するかもしれません笑 (6月5日 9時) (レス) id: 57b9dc3a01 (このIDを非表示/違反報告)
由良の門を - モブ男かわいいです笑笑彼の活躍を期待してる自分がいる (6月1日 22時) (レス) @page9 id: 2f071b2218 (このIDを非表示/違反報告)
殺痲(キルマ)(プロフ) - ねぎさん» コメントありがとうございます!新しい何かがほしいと思い爆誕したのがモブ夫でした…。キルマの作品オリキャラが出しゃばってくることが多いので楽しんで頂けて何よりです!モブ夫の活躍に乞うご期待ですね! (2023年4月9日 12時) (レス) id: 6f6fe81f90 (このIDを非表示/違反報告)
ねぎ(プロフ) - モブ夫を待ってる自分がいる、、笑。あひょ本も最高でした!笑 (2023年4月9日 3時) (レス) @page50 id: 37620205ea (このIDを非表示/違反報告)
殺痲(キルマ)(プロフ) - 龍さん» コメントありがとうございます!玲王のやつはちょっと心配だったので気に入ってもらえて嬉しいです🥰応援ありがとうございます!! (2023年3月6日 21時) (レス) id: ff5faac6c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:殺痲(キルマ) | 作成日時:2023年2月9日 18時