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side_you
樹に連れてこられたのは小さなゲームセンター。
この田舎町唯一の遊戯施設。
｢ここ…？｣
何も言わずに樹はニヤッと笑い、
私の腕を掴んだまま店内へと入って行く。
ゲームセンター…といっても、流石は田舎町。
2,3台のクレーンゲームと小さな格闘ゲームが
いくつかある程度。
閑散とした店内に私たち以外の客はいない。
｢…初めて来た……｣
樹｢…なんか欲しいもんある？｣
そう言って樹はクレーンゲームの中を指さす。
大きなお菓子やら変なキャラクターのクッション
などといった商品が並ぶ中、
私は一際可愛いぬいぐるみを見つけた。
樹｢…これ？｣
私が何も言わずとも目線でわかったのか、
樹はそのぬいぐるみを指さした。
私は小さく頷く。
すると、樹はポケットから小銭を取り出し、
慣れた手つきでプレイし始めた。
樹の操作するアームが器用に可愛いぬいぐるみの腹にくい込むと、
ゆっくりと持ち上げ取り出し口へと落とす。
｢すご…｣
たった1回で…
樹の腕の凄さは、
ゲームセンター初体験の私でもわかった。
樹｢ほい｣
樹の手からぬいぐるみを受け取り、軽く抱きしめた。
…可愛い。
｢ありがと、大事にする｣
その後も樹は景品を次々と私に取ってくれた。
プレイに集中する樹の横顔は、
あまりにも親権で子供っぽくて…
でも、少しかっこよくて……
私はすっかり、
嫌なことも辛いことも忘れてしまっていた。
…
帰り道、あたりはすっかり暗くなってしまっていた。
樹がくれたぬいぐるみを抱えて、2人で歩く。
｢お母さん心配してるかなぁ…｣
樹｢あ、遅くなるって連絡しといたよ｣
ちゃっかり、ちゃんとしてる…
｢ありがとね、今日｣
私は目線を逸らして呟く。
樹が私のことを元気づけようとしてくれたこと、
素直に嬉しかった。
樹｢俺が付き合わせただけだよ｣
樹のさり気ない気遣いは、
私を優しく包み込むようだった。
この空気が少し恥ずかしくて、
誤魔化すように空を見上げる。
満天の星空…
｢この広い 夜空いっぱい さく星を｣
私はどこかで聞いた、昭和歌謡を口ずさむ。
｢ひとつ残らず あなたに あげる｣
樹は静かに耳を傾けてくれていた。
｢虹にかがやく ガラスに つめて｣
この星を全部プレゼントしたら…
樹、あなたは喜んでくれますか？
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作者名：さいか
| 作成日時：2018年10月1日 22時
