億劫なほど/積田長幸 (ページ9)

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嫌いになるのも億劫なほどページ9

沙幸視点

1日、2日、3日。
1週間、2週間、3週間。
心の中ではわかっているはずなのに、
どうしても頭が理解しない。
警告している。
お前は弱いから壊れてしまうと。
彼は、彼らは強いから。
必ず帰ってくるからと。
そう思いたいだけ。
長幸からもらった鍵を持つ手がカタカタと震える。
冷や汗は止まらないし編集さんにも顔色が悪いし痩せたんじゃないかと心配された。
でも食べようと思っても食事は喉を通らないし筆も乗らない。
このままじゃダメだ、
そう思って勇気を出して長幸の部屋へ向かう。
理由はもちろん、デスクの引き出しを開けるため。
彼の部屋に入り深く深呼吸する。
彼のデスクで一つだけ鍵穴がついた引き出し。
何が入っているのか何度か聞いたことがあるがいつも内緒だと言われ開けるんじゃないぞと言われていた引き出し。
鍵穴にもらった鍵を差し込みゆっくりと回す。
カチャッという音を聞きうるさい心臓を押さえつけながら引き出しを開くと、そこには
小さな箱と大きめの紙と白い封筒。
とりあえず小さな箱を手に取ってみる。
アクセサリーが入っているような形の箱で
開くとキラキラと光る大きめのダイヤの指輪。
ーーー一瞬息が止まりそうななった。
これは何？一体どういうこと？
焦って大きめの紙を開くと婚姻届。
『…え？』
半分記入済みの婚姻届。
夫の欄には積田長幸。
鼓動はだんだん早くなり、先ほどより混乱しているはずなのにどんどん頭は冴えていく。
もう一つ、見ていない白い封筒に触れる。
表には綺麗に整った字で「沙幸へ」と書かれていた。
長幸からの手紙だ。
中を開くと、

ーーーーーーーー
この手紙は俺様が帰ってこなかった時のために書いたが、お前がこの手紙を読んでるってことは俺様はきっと死んでるんだろうな。
弟ちゃんは生きてるか？まぁ俺様が死んでるんだからもしかしたら生きてねぇかもしれねぇな。
もし俺様達が二人とも帰ってこなかったとしたらお前は俺様達を忘れろ。
指輪も婚姻届も見なかったことにしていい。
この家を引き払って、物も全部捨てて、家を借りて、恋人を作って、
お前だけでも幸せに生きてくれ。
でも俺様は一生お前を愛してる。
長幸。
ーーーーーーーー

目から涙が溢れる。
私の恋人は最後まで最高に自分勝手だったようだ。
新しい恋人？私だけ生きて幸せに？
馬鹿じゃないのか？
私は彼が大好きでその以前に大嫌いだったんだ。
絶対言うことなんて聞いてやらない。
左手の薬指に指輪をはめて婚姻届にサインした。