億劫なほど/積田長幸 (ページ8)

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きすをするのも億劫なほどページ8

昨日の夜は彼女の作った飯をたらふく食べて、
彼女の髪の毛を乾かしてやって、
一緒にアイスを食べて、
なぜかリビングに布団を敷いて三人で寝て、
起きてみればいつもと同じように朝食の準備をする彼女とまだ寝ている弟。
まるでこの後、今日の夜
俺様達の生死をかける大戦なんてないかのように。
日常は続いて幸せは続くように見えた。
弟を起こし朝食も取りもう昼前で家を出る時間。
彼女は今にも泣きそうに目を潤めている。
剛保が彼女の頭に手を乗せ「沙幸行ってくるわ、コイツらの世話頼んだぜ？お前しか頼める奴いねぇし…何があってもお前なら大丈夫だ。だからこれからも俺たち親友だからな？忘れんじゃねぇぞ？」
と笑いかける。
『う、うん。当たり前、でしょ剛保の親友なんて、私以外に務まるわけな、い、じゃない、あの子達も、私が責任持って預かって、て、あげるから、感謝してよね、大好きだから、ちゃんとわたし、』
もう堪えられなくなったのか彼女の目からポロポロの雫が溢れる。
「もういいって、な？」と剛保が軽くハグをし頷いて彼女が今度はこちらを見る。
『長幸、あの、わたし、全然可愛げのない女でごめん、迷惑ばっかりかけて、今だって、ずっとわたし長幸のこと大好きだから、何があっても忘れないし、ほんと、もうなんて言えばいいか…………』ここまで好きな女を泣かせるつもりはなかったし、ここまで泣くなんて思っていなかった。
彼女は俺様の思っていた倍泣き虫のようだった。
「沙幸、俺様は大戦で死ぬ気なんてこれっぽっちもねぇ。それは弟ちゃんも同じだ。でも死ぬか生き残るかなんて正直そんなことはわかりゃしねぇ、だから待ってそれでも俺様が帰ってこなかったら、この鍵で俺様のデスクを開けろ。中の物お前にやるから。わかったら泣き止め、な？」
『う、んわかった………帰ってきたら開けちゃ、ダメ、なの？』
「帰ってきたら俺様が直接くれてやるからダメなんだよ」
そう言うと涙で濡れた顔をぬぐい笑いかけ抱きついてきた彼女はとても愛おしくどちらからともなく唇に触れるだけのキスをし
「待っててくれ」
と呟いた。
『剛保も長幸もわたし帰ってくるの一生待ってるから。私の恋人も親友もこの世にあんた達だけしかいないから。帰ってきてよね』
その言葉を聞き俺様達は同時に「「行ってくる」」と扉を閉めた。
大戦まであと数時間後。

ーーーゴトッと目の前に落ちた弟の頭を見て、一人じゃろくに使い物にならない自分に「役立たずめ」と呟いた。