全部捨ててもいいよ。 (ページ10)

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9話ページ10

その後一通り内見を終え、家具やらは後日お兄ちゃん達に揃えてもらうことになりその日は解散した。

その後みんなはそれぞれ仕事らしく、一人事務所に向かって歩いていると急な着信。

名前を見ると、

元太からだった。

『…こっちに掛けてこないでって言ったよね』

仕事用とプラベ用のスマホのうち、今日持ってるのはプラベ用の方。連絡先、ほんと毎回どこから漏れてるんだろう。

｢ん？あ～そうだっけごめんごめん｣

微塵も悪いと思ってなさそうな声で笑う。

『で何？仕事の話？』

｢違うって。Aが東京来てるって言うから電話しただーけ｣

…どうやらほんとにそれだけらしい。

『あっそ。切るね』

｢ちょちょちょたんま！待てって！｣

いきなり酷いなぁ、と画面越しにため息。
ため息つきたいのはこっちだっつーの。

｢今どこにいんの？また迷ってたりしてんじゃねーの？｣

『迷ってへ…ない。事務所の近くだし迷うわけないでしょ』

｢ふーん。でももうあのマネージャーさん居ないんでしょ？｣

本当、どこからそんなこと聞いてくるんだか。

｢俺が迎えに行ってあげよっか｣

ニヤニヤしてる顔が浮かぶ。

『結構です』

｢なんで？俺Aの為なら今からでも事務所行くけど｣

『私のためって…なんでか訳わかんないし』

｢だって、Aのこと大好きだもん｣

ほら、また出た。

『…冗談でもそういう事言わんとって』

｢冗談じゃねぇし。マジだもん｣

『まだ懲りてへんの？アホちゃう？』

｢ひっどぉ。いくら事務所の人に言われたって俺は諦めないからね…

てか関西弁出てるよ？余裕ないのはそっちじゃねーの？｣

おちゃらけてるようで遊ばれてたのはこっちなのかもしれない。

｢まあいーや。でさ、今日の夜とか空いてる？｣

『…今日は空いてない』

｢ほんとに？｣

『今日はマジ。もうほんとに切るよ』

｢あー待って！…事務所の人？｣

『……ちが、う』

｢……そう。じゃあまた今度ね。大好きだよ｣

余計な一言を残して電話を切られる。

私の微妙な言葉の間を察したらしく、ほんとにどこまでも読めない人だと怖くなった。

でも、どこか彼に縋ってる私がいるのだって事実で。