ひとつ屋根の下で月を眺める

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一人になれそうなベンチに腰を掛けた。


あーあ、料理置いてきちゃったな。



深澤「なーにしてんの」



聞き馴染みのいい声が、背中に届く。
さっきまでの不快感をふわりと消すように。
その声は、当時を思い出させた。
高校を卒業してから一度も会ってないのに、声を聞くだけですぐにわかるなんて。



「……深澤くん」

深澤「よっ」



自然に隣に座った深澤くんに、少し心臓が速くなる。
嫌じゃない、この人に近付かれるのは嫌じゃなかった。



深澤「今回は来たんだね。いつも来ないじゃんAさん」

「……あ、うん。今回は涼子に誘われて」

深澤「いつも探しちゃうんだよね、Aさんいないかなーって」

「へ、」



深澤くんは、私に会うの、嫌じゃなかったんだろうか？
私は少し気まずくて、胸が痛くて。
でも、嬉しい気持ちもあった。



深澤「あ、料理食べた？ めちゃくちゃ美味いよ、ほら」



会わなかった期間なんて気にしないとでも言うように、深澤くんは私の口元にフォークを向ける。
フォークにはローストビーフが刺さっていた。
私が、食べたいと思っていたものだ。

本当に、懐に入るのが上手い。
コミュニケーションが下手な私とは大違いだ。



深澤「早く、落ちちゃうって」

「……、」



恐る恐る口を開けた私に、優しくフォークを舌に乗せてくれる。
「美味いっしょ？」と言う深澤くんの少し悪戯っ子な笑みが、あの頃と変わっていなかった。



「ねぇ〜ふっかぁ？」

「こっちで喋ろうよ〜！」

深澤「はいはい、今行くって」



女の子たちに声を掛けられて立ち上がった深澤くん。
人気者はすごい、常に誰かに求められてる。
料理の乗った皿を私に手渡して、「残りも食べて」と踵を返した。
行ってしまうんだ、もっと話していたかった。
そんなことを思っていたら、急に深澤くん「あ」と振り返った。



「……？」

深澤「まだ帰んないよね？ Aさん」

「うん、一応」

深澤「おっけ」



「またね」と手をひらつかせて笑った深澤くんは再び輪の中へと戻っていった。







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