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キッチンの棚からペットボトルを取り出して手渡す。
それから一応、２人分のコーヒーをセットする。
コーヒーの出来上がりを待つ間にタブレットを起動して今日の予約を確認して行く。
１人分のコーヒーをマグカップに入れてタブレットと共にソファーへ移動する。
「何見てんの？」
「今日来るお客さんの関連記事」
「関連記事？」
「そ。
NGワードがないか確認」
時々NGワードが発生する為、確認しておかないと接客中に口に出したら不味いのだ。
何処の世界のトップクラスの人間は足元を狙われているから……
一言一言にも気を使わなければ足元を掬われる。
「それとブログのチェック」
個人のものから会社のものまで目を通す。
どの話を振られても感想やプラスの意見を返せるように。
「英語？も見るのか？」
「うん。
外国から来るお客さんもいるからね」
明らかに英語ではない文字の物まで目を通している。
「読めんの？」
「読めるから見てるんじゃん。
文字眺めて楽しむ趣味はないよ。
あ、そうだ」
見ている途中で何かを思い出したのか立ち上がって奥の部屋に入って行く。
暫くして手に数冊の冊子を持って戻って来る。
「これ、お客さんの会員規則とホストの規則、寮の規則。
店と寮の案内図もある。
俺、暫くこれ見るから何も話出来ないし暇だろ。
目を通しといて」
そう言うと智は再びタブレットに目を通す。
その真剣な目に邪魔は出来ないと手渡されたそれを広げる。
そして唖然……
なんだ？
この桁違いの金額は……
こんな額払っていたのか？
１度だけ……20歳の誕生日に連れて来られた。
それっきり。
後は親の脛ではなく自分の稼ぎで来いと言われた。
そう微笑みながら言ったのは智だ。
ナインと呼ばれていた。
その時は何故、男の自分がホストクラブなんかに連れて来られないといけないのか訳が分からず、ずっと文句を言っていた。
しかもドレスコードのあるクラブって……
客は皆、これでもかって着飾ってるし……
なんか奥には民族衣装みたいなの着てる人もいるし……
建物の中は思ったより地味で、カーペットも赤ではなく青。
派手なキンキラはなく、落ち着きはある。
それ故客たちの派手なドレスに目が行く。
男のスーツもピカピカしてる。
「主役はお客様です。
ここで何をどう楽しむかはお客様次第です。
私たちはそれに華を添えるだけですから」
そう言った彼は確かに良く言えば物静か、悪く言えば地味なホストだと思った。
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作者名：蒼羽
| 作成日時：2020年2月10日 8時
