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死ぬ程笑って渡されたアルコールではなく水を貰ってどうにかこうにか落ち着く。
智にとって櫻井は真面目なイメージの客だ。
それなのにこんな笑える事をするなんて……と勝手に爆笑しておいて勝手な事を思った。
櫻井が自分を追い掛けて来ているのは知っていた。
何度も智が行く場所に現れたからだ。
ずっと店の規則通りスルーしていた。
なのに今日、これだ。
「なんなの、あの人……」
「オーナーから特例出てるんだろ、彼」
「何？
こっちまで通達回ってんの？」
「ああ……
彼だけがオーナーがOK出してるから好きにさせていいって」
「なんなの？」
「さぁ……」
と言葉を濁したがオーナーの説明を受け、納得したから従っている。
智に外の世界を見せたいと。
オーナー自身では出来ないから智と同世代で行動力のある人間として櫻井を選んだのだと。
「じゃあ、さ……お返しに……」
「……おい」
智からのオーダーを聞いて呆れるが嫌とは言わないあたり、彼も保護者なのだ。
オーナーの言葉は信じているが自分の目でも確かめたい。
智を託していい相手なのか……
櫻井は知らない。
その実、智の回りには姑小姑が山のようにいると言う事を。
それらの審美眼に叶わなければならない事を。
そっちの方が面倒臭いかもしれないのだ。
智のオーダーを櫻井の元に届ける。
深紅のカクテル。
櫻井はカクテルが返されるとは思っていなかったようで大きな目をより見開いてグラスと智を交互に見つめた。
「面白い顔……」
「いいのか？」
成り行きを訳も分からず見ていた潤が智に問う。
「いいらしいよ、オーナーの許可が俺の行く所、全部に回ってんだもん。
どうすんのか見てたけど、こんな面白い事するなんて……」
うけを狙った訳ではないと思うが黙っておく。
ちらりと櫻井を見るとグラスの中身を一口口に含んで固まっていた。
泣きそうな目が智を見る。
智は目一杯営業用スマイルで手を振る。
「何飲ませたの？」
アルコールであるのは間違いないが口に含んで飲むに飲めなくてピクピクしているのを見るとまともな飲み物ではない事はわかる。
「俺のお気に入りのウオッカをベースに濃いめでくそ甘くて真っ赤な情熱的なカクテルを作って渡してって頼んだ」
情熱的の意味を履き違えている。
固まる程、くそ甘くて濃いカクテルって……
それを忠実に作って相手に差し出すバーテンダーもバーテンダーだ。
やはり彼もまた過保護な保護者なのだ。
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作者名：蒼羽
| 作成日時：2020年2月10日 8時
