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「この店に関係のない人間に託したい。
あの子の世界を広げる手助けを……」
「……私が選ばれたと受け取っていいんですか？」
思わぬ提案に驚きつつもしっかりと確認する。
気のせいでは困る。
オーナーは静かに頷いた。
「但しスカウトの話は白紙に戻して下さい。
暫くはあなたを警戒するでしょう。
それでもよければです」
「マイナスからのスタートですか？」
「そうなりますね。
私からの許可は出ていると言っても構いません。
特例だ……と。
それでも駄々を捏ねるでしょうが。
そこからはあなた次第です」
社員として引っ張るのは無理そうだが、友達？……から始めるのも悪くないか……
その後、来てくれればラッキーだ。
それに懸けるか？
どうやら彼は理詰めが苦手なようだ。
頭では理解しているようだが、感情的に拒否反応が出ている。
頭で考えるより感性で動くタイプなのだろう。
しかし自分は理詰めが得意で、直ぐにそちらに持って行ってしまう。
すると拒否られる。
ならば……折角の特例だ。
使わない手はない。
他人の為にやりたくもないクイーンをやる程に優しいのだから、懐に入れれば話は持って行きやすいかもしれない。
それに賭けよう。
「わかりました。
特例……受けさせて頂きます」
「くれぐれも……」
「他言無用ですね」
「バレた際は会員削除と言う事で……」
「怖いな」
そういう櫻井の瞳は輝いた。
困難を目の前にすると燃える。
「では、智を宜しくお願いします」
「えっ……」
「あの子の名前ですよ。
大きな野良猫が野良猫なりに頭は良かったので大野智とつけました。
最初の印象そのままです」
……笑う所ではないだろう。
大きな野良猫で大野……
野良猫なりに賢いから智？
いいのか？
そんな名付けで……
……でもなんだろう……しっくり来る。
確かに猫みたいな人だ。
あの人のタンゴ……見てみたい。
黒猫のタンゴ……
まんまだな。
と１人で悦に入って笑ってしまう。
「どうしました？」
「あの人の……智のBGMは黒猫のタンゴだなぁ……って思っただけです」
「確かに……まんまです。
なので気をつけて下さいね、引っ掻かれないように……」
「ええ」
本人がいないのをいい事に言いたい放題だった。
そうとは知らず寮へ戻る道を途中からぽてぽて歩いている智……途中まではどかどかだった。
どうにも怒りは長続きしない。
のどかな山道を歩いているうちに収まって来た。
無理なものは無理だけど……
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作者名：蒼羽
| 作成日時：2020年2月10日 8時
