ドラマーと元.天才ドラマー (ページ2)

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カランカラン―

結構な頻度で訪れるこのライブハウス。

大「お、Aちゃん。いらっしゃい。」

『今日も、奥の部屋空いてる？』

大「あぁ。勿論空いてるよ。」

オーナーの大橋さんはとっても優しい。

『じゃ、その部屋使う。』

大「無理はしちゃ、ダメだよ？」

『……分かってるって。』

分かってる、そう返答しても守る気なんてさらさら無かった。

部屋の鍵を受け取って、私は受付を後にした。

天才ドラマー、慶光院A！なんて言われてたけど

そんなものは過去の栄光だ。

もういい、終わった話だ！と自分に言い聞かせるように

ドラムスティックを持ち、ドラムを叩く。

一度だけ、テレビ番組に出演した時、

大倉忠義、関ジャニ∞のドラマーと出会った。

がむしゃらに、だけど正確にドラムを叩く彼の姿に

素直に一目惚れしていたのかもしれない。

外からは、大橋さんと男の人の会話が聞こえてくる。

そんなことも気にせず、私はドラムを叩いた。

何時ぐらい経っていた頃だろう。

ドラムを叩いていると、またあの痛みに襲われた。

『い゛っっ…！！』

掌から滑り落ちるドラムスティックは、あたかも自分を表現しているようだった。

奥からパタパタ…と駆ける音がする。

ドアを開けたのは大橋さんで、そっと私の目の前に屈みこむ。

大「Aちゃん、もうやめておいた方が…」

またこれだ。

『大橋さん…まだ私は終わるわけにいかないんです。』

大「でも…もうそんな腕じゃ…」

確かに、もうあんなようにドラムは叩けない

『こんな腕でも、諦めるわけには…』

何が何でも、諦めたくなかった。

続きを言おうとすると、そこには

大倉忠義が立っていた。

『なんで…大倉さんがここに…？』

多分、自分でもわかるほど素っ頓狂な顔をしていそうだ。

大倉「慶光院さん、この後時間ありますか？」

彼がそう聞いてくる。

確かに、ドラムを叩く以外用事はない。

『ありますけど…どうかしましたか？』

大倉「あ、いや…もし良かったら、この後食事に行きませんか？」

あのドラマーと？一緒に食事？

そう思うと、心臓の音がうるさく聞こえてきた。

多分、私はそうとう真っ赤な顔をしているんだろう。

『はい。私で良ければ…』

遠慮がちに返答をする。

今思うと、ここが私たちの出会いだった。