優しさは棘になる ページ8
「あ、Aちゃん」
屋上からの帰り、廊下をキョロキョロと見渡している彼女の姿が目に入った。
俺が目に入ると目を輝かせて近付いてくる。
( そういうのが、ずるいんだよな )
俺の存在なんてもう心にもないだろう。
それが、少しだけ寂しい。
『良かった増渕くんいて！ねえ市橋くん見てない？病室行ってもいなくて』
「え？ああ、」
そうだった。
市橋は屋上で歩く練習をしてることAちゃんには内緒にしてたんだっけ。
こんなだせぇ姿見せたくないとか言って。
「…市橋なら屋上にいるよ」
俺の返事に「ありがとう」と嬉しそうに呟いた。
──── ああ、なんだろう。
この胸に渦巻く、どす黒いものは。
『じゃあ増渕くんも頑張ってね』
そう言って俺の隣を通り過ぎるAちゃんの手を咄嗟に掴んだ。
自分でも驚いて「え、あ、」と言葉にもならない声が漏れる。
『どうかした？』
「いや、その…」
言いたい事は山ほどあるのに、言葉が喉につっかえる。
必死に頭を巡らせてみても真っ白になったまま何も浮かんでこない。
「蓮子と、付き合うことになった」
驚いて目を開くAちゃんはそのまま地面に視線を落とした。
その瞬間彼女の口からこぼれた言葉は予想外のもので。
『そっか、良かったね！』
「え、？」
『やっと付き合えたんだ』
よく考えればAちゃんならそう言うだろうなんてこと想像くらいついたはずなのに。
ズキズキと痛む胸に気付かないふりをした。
『あのね増渕くん、』
「ん？」
『市橋くんのこと、よろしくお願いします』
そう言って頭を下げたAちゃんの顔を慌てて上げさせる。
『増渕くんと仲良くなってから凄く楽しそうだし、本当にありがとう』
彼女は、優しい。
誰にだって、優しすぎる人だ。
でもその優しさはたまに
──── 誰かの心に酷く刺さってしまう。
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新田あすか - 作者さん、ありがとうございました！最初は新田真剣佑さんが好きで、このお話を読もうと思ったんですが、話を読んでいるうちに、このお話に吸い込まれていきました！最後の方ですごく切なくなって泣いてしまいました…本当に面白かったです。これからも頑張ってください (2021年1月10日 0時) (
レス) id: d65c8b7d40 (このIDを非表示/違反報告)
やまもも - 続きがみたぁい！！です！ (2020年4月9日 9時) (レス) id: 0e426eb71e (このIDを非表示/違反報告)
みかな - 続きが見たぁぁぁいです！ (2019年11月17日 18時) (レス) id: 4b97b9501b (このIDを非表示/違反報告)
おもち - 泣いてしまいました。作者様はもしかしたらもう続きを書かないかもしれないけど、それでもここまでの作品を作っていただきありがとうございました。最後まで読んで、色んな気持ちでいっぱいになってます。本当にありがとうございました。 (2019年9月14日 17時) (レス) id: 4851cd86d7 (このIDを非表示/違反報告)
machuasu - すいません続きを… (2018年8月10日 20時) (レス) id: b964d8abaf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：佐伯
| 作成日時：2017年9月3日 22時
