18 ページ18
----------------------
( 久部 )
彼女の涙を、初めて見た。
そりゃ出会ってまだ日も浅いけれど。
だけど簡単に泣いたりするような、そんな人にも見えなかったから。
──── 目の前にある事実から目を逸らさなきゃいけないの？
今にも泣いてしまいそうな顔でそう告げた彼女は「ごめん」と呟いてラボを出ていってしまった。
「ちょっと俺、見てきます」
この一言だけで理解したのか「お願い」と告げた美澄さんはそのまま椅子に座り直した。
────────────
「大丈夫、ですか？」
彼女がいたのは屋上だった。
俺の声に驚いた黛さんはこっちを振り向くと、こぼしていた大粒の涙を慌ててぬぐい笑顔を取り繕う。
『恥ずかしいところ見せちゃったね。
ごめん気にしないで』
「…なんで、笑うんですか」
『へ、』
──── そんな悲しそうに笑われたら、
俺まで悲しくなりますよ。
言ってしまった後で顔が燃え上がるほど恥ずかしくなった。
『優しいんだね、メガネくん』
そう言うとそのまま屋上の景色を眺めた。
そっと彼女の横に立つ。
「…諦めなくて、いいと思います。
というか諦めたくないです」
『、っ』
「俺だって、もちろん美澄さんも同じ気持ちだと思います」
隣の彼女が少し俯くと「メガネくんはさ、」と話し始めた。
『どうしてここでバイトすることにしたの？』
「…先輩に勧められて」
『そっか。
大変だね、いざ来たらこんな所で。
キツイし、キモイし、死体臭いし』
「どうして黛さんはここで？」
「うーん」と呟いた彼女は空を見上げると微笑んでこちらを向いた。
『前に話したでしょ、中堂先生が光だって』
「はい」
『…私、あの人に救われたことがあるの』
「中堂先生に…」
『あんなに口悪くても、立派な法医解剖医だから』
何も言えないでいる俺に「んーでもやっぱり腹立つな、立派だなんて」と告げた彼女に思わず吹き出してしまった。
『よし、温泉行こう！
リフレッシュに』
「え！？
いや温泉は…」
『なに、嫌い？』
「いや好きですけど」
二人きりで、温泉…
──── まずいだろ。
────────────────
「あの、ひとついいですか」
『なに？
メガネくん』
「俺、久部です」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 632人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あんず。 - 総コードじゃなくて、水の硬度じゃないですか？あと、亜州酸じゃなくて、亜硝酸だと思います。貯水地に含まれる成分なので (2018年1月28日 17時) (
レス) id: 7a53a4dd7e (このIDを非表示/違反報告)
杠(プロフ) - 今、アンナチュラルにどマりしているところ、の小説は嬉しいです！と少し気になったのです美澄ミコトではなく、三澄ミコトだと思います！！これからも楽しみにしています！！ (2018年1月28日 10時) (レス) id: 7c452d0c7b (このIDを非表示/違反報告)
佐伯(プロフ) - ポメさん» ありがとうございます！とっても嬉しいです（；_；）これからもよろしくお願いします！ (2018年1月25日 21時) (レス) id: b9ebf906a3 (このIDを非表示/違反報告)
佐伯(プロフ) - 若菜さん» コメントありがとうございます！すごく嬉しいです！この先も頑張りますのでぜひ楽しんで読んでください！！ (2018年1月25日 21時) (レス) id: b9ebf906a3 (このIDを非表示/違反報告)
ポメ - すごい文才だなぁ。凄いなぁ。面白いです∧∧ (2018年1月24日 0時) (レス) id: 4385b4fd2a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：佐伯
| 作成日時：2018年1月20日 0時
