グレイ _ ｇｒａｙ__ (ページ8)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:10,220 hit

よわむしページ8

いつものようにITOKANで飯を食っているとふらーっとAがやって来た
かなり疲れた様子で椅子に座るなり机に寝そべって動かなくなった
「Aちゃんだいぶ疲れてんなぁ、どないしたん」とダンが聞くと、どうやら親父さんの病院に急患が運ばれて人手が足りなかったらしくヘルプに呼ばれて動き回されたらしい
『これだけ動いてもタダ働きだよ？！ありえない』と言っていたけれど、好物のナオミのオムライスを食べると元気が出たようで、今からまた病院に戻るらしい
仕事じゃなくて、九十九さんに会いに

流石に夜も遅くて１人で行かせるわけには行かねえし「送ってく」と言うと満面の笑みで喜んでいた

外の風もそろそろ冷たくなってきて『ちょっと寒くなったね』なんて手を擦り合わせているAの背中に着ていたジャケットを脱いで掛けると、『、ありがとう』と微笑む顔がなんか恥ずかしくて思わず目を逸らしてしまった

『ねえ、コブラ』

「なんだ」

『…もしムゲンが解散しなくて雨宮兄弟もここにいたら、どうなってたのかな』

「、さあな…でもお前が今、大事に思ってるヤツらには会えてないだろうな」

『…考えちゃうんだよね。お兄ちゃんも琥珀さんも龍也さんもいたら、もっと、幸せだったのかなって』

「そうかもしれねーけど、そうなったらきっと、今の幸せを失ったこと後悔する日が来んだろ」

『そうだね、きっとコブラとこうして帰ることも出来なかったかもしれないね』

「…ああ」

『この時間も私にとって幸せだから、このままでいいや』

俺が思わず足を止めると数歩先で止まって不思議そうな顔で『どうかした？』振り返る。
俺の気持ちは知らないくせにそんなセリフを出してくるところは昔から全く変わっていない
俺達の関係も全く変わっていないけれど

「、な、なんでもねーよ」

少し早歩きで歩き出す俺に慌てて着いてくるA
もうすぐこの時間が終わってしまう
少しでも長く感じていたくてちょっとずつ歩くのをゆっくりにしていく

『ありがとうコブラ、ここでいいよ』

Aは九十九さんの元へ行く時は必ずひとりで行くようにしている。
九十九さんへの気遣いなのかも知れないけど、きっと二人の時間を大切にしたいというAの気持ちが大半だと思う。

じゃあね、と遠ざかっていくAの背中を見つめながら何も出来ない俺は山王のリーダーではなくて、ただの弱虫だった。