第88話 ページ39
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その日の夜、Aは一人、合宿所の石段に腰掛け夜空を見上げていた。白い彼女の肌は、月明かりに照らされて青白く輝いていた。
「A。」
そんな彼女の名前を、誰かが呼んだ。彼女を下の名前で呼ぶのは、この合宿所では1人しかいない。
「…ああ、充。どうしたの、こんな夜遅く。」
一星は、やや気怠そうにそう言った彼女の横に腰かけると、空を見上げた。
「…俺、光の為ならどんなことでもする。あいつは、俺が救ってやる。」
やや欠けた月をじっと見つめながら決心を口にする彼を見て、Aは思わず彼の横顔から目を逸らした。
彼に事実を伝えることが出来たならどんなに良いだろう。少なくとも自分は楽になれる。しかし、それは出来ない。そんなことしたら、彼はもっと追い詰められる。
「うん、知ってる。充の覚悟は私が誰よりも理解してる。そして、私の覚悟も充が一番理解してくれてるでしょう？」
何も言えない。私は彼に、何もしてやれない。だからせめて、私だけはこの子の絶対の味方でいる。何があっても、この子を否定するものか。
Aは、膝に置いていた手をギュッと握りしめ、心の中で決意を固めた。
そんな彼女の横顔をじっと見ていた一星は、そっと彼女の拳に手を置いた。
「A。俺、確かに光が大切なんだ。でも、光と同じくらいお前のことも大切。だからお前が傷付く所は見たくないし、誰かに傷付けられるのも見たくない。…俺が言っても説得力ないかもしれないけど、もっと自分を大事にして欲しいんだ。」
それを聞いたAの瞳が大きく揺れる。
やめてくれ、そんな事を言わないで＿。貴方にそんな事言われたら、決心が揺らいでしまう。
「…本当だ。全然説得力ないね。その言葉、そっくりそのままお返しするよ。」
彼の目が見れない。自分が考えていることが見透かされてしまいそうで怖いのだ。彼は決して鋭いタイプじゃなかったが、私の心情については尽く鋭い。
「私もね、充と光が大事なの。本当に、家族だと思ってるんだ。貴方たちの為なら、この身を投げ出す覚悟は出来ている。」
だから、そんな顔で私を見ないで＿。貴方の為に身を滅ぼせたなら、後悔なんてしないから＿。
「A、俺はそんなの…」
「望んでないのは分かってる。でも、それが私の望みなの。だからさ、もう何も言わないで？」
一星の言葉を遮り、悲しそうに笑った彼女を見て、彼はそれ以上何も言うことが出来なかった。
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エル(プロフ) - 名無しのりんごさん» わあ、ありがとうございます！そう言ってもらえると励みになります^_^更新頑張りますのでこれからも宜しくお願いします！ (2019年12月23日 17時) (
レス) id: 399e3550ff (このIDを非表示/違反報告)
名無しのりんご - 面白いですね。綺麗な表現がたくさんあって素敵です。頑張ってください！ (2019年12月23日 1時) (レス) id: 694c2bbe46 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ニーナ | 作成日時：2019年11月16日 12時
