86 ≪the past≫ ページ38
「ただいま」
玄関のほうから翔くんの声がした。
出迎える気にもならず、俺はソファにゴロンと横たわったまま携帯を弄っていた。
「ただいま。
智くん、いるの？」
マフラーを首から外しながら翔くんがやって来た。
その姿をチラッと見て、視線をまた携帯に戻す。
「なんだ。
いるんなら電気くらい点ければいいのに」
日はとっぷり暮れていた。
薄暗い部屋はそれだけで寒々しい。
カチッという音と共に一瞬で明るくなった部屋。
翔くんはソファの上の俺を確認すると、不思議そうな顔をした。
「どうした？」
問われてもろくに返事もしない俺に彼は首を傾げる。
「お昼ご飯も食べに来なかったから、てっきり絵に集中してるのかなって思ってたんだけど、そういうわけでもなさそうだし」
イーゼルに取り付けたキャンパスに目を遣りながら翔くんが言う。
今日はほんの少しだけ色を塗って、途中で飽きてすぐに止めた。
「具合でも悪いの？」
そう言って翔くんは俺の額に手を当てようとした。
反射的にその手を無言で振り払った。
「あれ？もしかして機嫌悪い？」
質問攻めの翔くんにウンザリして、俺はゆっくりと体を起こす。
「・・・今日、忘れて行っただろ？」
「え、何を？」
「それ」
テーブルの上の携帯を顎で指す。
すると彼は「ああ」と声を漏らした。
「どこに置き忘れたかと思ったら、こんなところに」
苦笑しながら翔くんはそれを手に取る。
「松屋食堂に着いてから忘れたことに気付いて。
そそっかしいよね〜、まったく」
「だよな・・・」
露骨に不機嫌な物言いをする俺を見て、翔くんは眉をひそめた。
「さっきからどうしたの？
元気がないって言うか・・・イライラしてない？」
翔くんは隣に腰を下ろし、俺の手を取った。
外は相当寒かったのだろう。
彼の手はかじかんでいた。
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なつ(プロフ) - 花咲*さん» 花咲*さん、おはようございます！いつもご愛読ありがとう♪しかもいつも感情移入して読んでもらえて感謝感激！この辺で泣いてちゃダメですよ〜！まだ泣き所はご準備してますから。どうぞお楽しみに！！ (2019年10月6日 7時) (
レス) id: 3dbb952a56 (このIDを非表示/違反報告)
花咲*(プロフ) - ｡ﾟ(ﾟ´Д｀ﾟ)ﾟ｡こんな別れ方を二人はしていたのかと思うと切なくて切なくて泣けてきます。なつさんのお話で泣いてばかりですがやっぱりなつさんのお話大好きなので読んでしまいます！その後翔君どうやって生活していてのかも気になるしこの後の展開が楽しみです。 (2019年10月5日 15時) (レス) id: fe81ade62f (このIDを非表示/違反報告)
なつ(プロフ) - まったりやさん» まったりやさん、こんばんは！切なさいっぱいの過去がとうとう明るみに( ﾉД`)これからまた現在編へ戻り、掛け違ったボタンの行方をお楽しみ下さい。ただ今、移行準備の真っ最中です。しばしお待ちを！ (2019年9月11日 1時) (レス) id: 3dbb952a56 (このIDを非表示/違反報告)
まったりや(プロフ) - なつさん、お久しぶりです。切なさと切なさと切〜な〜さと〜♪…あぁ〜大変な過去の出来事ですね〜！お互いの罪悪感と遠慮からなのか、ボタンの掛け違い心のすれ違い…。でも、ここからの展開が、なつさんの作品のクセになるところ。続きを楽しみに待っています。 (2019年9月9日 13時) (レス) id: 6d900dafd3 (このIDを非表示/違反報告)
なつ(プロフ) - smsさん» smsさん、こんばんは！ご無沙汰してます♪とうとう智くんやってしまったよ（泣）この裏切り行為が後の現在編にどう繋がっていくのか、お楽しみに〜！翔くん、記憶を無くしたままも辛いけど、記憶が戻っても辛いね(´；ω；`) (2019年9月3日 23時) (レス) id: 3dbb952a56 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なつ
| 作成日時：2019年6月11日 0時
