月が微笑むから 3 【山】 (ページ36)

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「で、一緒に仕事をしてみて分かったんです。
智のデザインした広告はとにかく訴求力がすごいんですよ。
そのうち一目置かれるようになったんです。
だから俺はずっと一緒に仕事出来たらいいなと思ってたんですけどね・・・」

そこで一旦、松本さんは言葉を止めて、ぬるくなったビールを一気に飲み干した。
そして、すかさず二杯目を頼む。

「ずっと智がひた隠しにしていた秘密がバレたんです」

「秘密・・・ですか？」

松本さんがこちらを向いて頷く。

「大野学って知ってます？」

「聞いたことあるような・・・」

「ロンドン在住の画家ですよ。
現代アートの巨匠とか言われてます。
その一人息子なんですよ、智は」

え？
智くん、そんなすごいお父さんがいたの！？

「でも智くんは、自分には家族がいないって言ってて・・・」

「俺も最初はそう聞かされてたんで、ビックリしましたよ。
会社の同僚がどこかから仕入れてきた情報なんですけどね、本人に聞いてみたらあっさりそうだと認めました」

「どうしてそんなこと隠してたんですか？」

「色眼鏡で見られるのが嫌だったみたいです。
巨匠の息子ってことだけで擦り寄って来る人間も多くいたみたいで」

「だから内緒にしてたってことですか？」

「理由はもう一つあって・・・。
智は生まれも育ちもロンドンで、日本人なのに日本のことを知らないのが許せなかったようで大学はこっちの美大に進学したんです。
アイツの父親も自分のように画家になってくれるのならそれでいいと認めてくれた。
本人も画家を志してたんですけどね、在学中に商業デザインのほうに興味を持ったらしくてグラフィックデザイナーになりたいって言い出したそうですよ」

そうだったんだ・・・。
それで夢を叶えたんだね、智くんは。

英語が堪能だったのもそういうことだったのか。