月が微笑むから 3 【山】 (ページ25)

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俺の言葉に松本さんがムッとした顔をする。
そしていつものように睨むように俺を凝視して言った。

「そんなのも分からないんですか？」

鈍感ですね、と付け加えながら松本さんが資料を片付ける。
そんな彼の言葉の意味を俺はうまく咀嚼出来ずにいた。

「だから！
前にも言ったでしょう？
智は相当、櫻井さんのことを気に入ってるって。
そういうことですよ」

「ええっ！？」

智くん、もしかして俺に会えなくて塞ぎ込んでたの？

「でもね、櫻井さん。
俺はまたアイツと組んで仕事が出来ればいいなって思ってるんで余計なちょっかいは出さないでほしいんですよ。
智には才能がある。
俺にはそれを引き出す自信があるし、これは俺にしか出来ないことだと思ってますから」

「はい・・・」

松本さんに牽制されても何も言い返すことの出来ない不甲斐ない自分がいた。
でも松本さんの言うことはもっともなことで、いつか智くんも元気になって仕事に前向きになってくれたらいいなと思った。

デザインのこととか、正直俺にはよく分からない。
でもネットで受賞作を見た時、智くん凄いなって率直にそう思ったんだ。

だから・・・。

「智くんに伝えて下さい。
陰ながら応援してるから頑張れって。
智くんのデザインする広告を楽しみにしてるって・・・」

智くんが何が嫌になってデザイナーを辞めてしまったのかは分からない。
でもまたやり直そうとあなたが思っているのなら、俺はずっと応援してるよ。

「分かりました。
智に伝えておきます」

松本さんは穏やかにそう言ってくれたけど、渋い表情は崩さなかった。