月が微笑むから 3 【山】 (ページ22)

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「俺ね、その言葉の意味、自分なりに解釈して、ずっと翔くんのとこにいようと思ってたんだけどなあ・・・。
でも俺、なんか勘違いしてたみたいだね」

「え？」

それってつまり・・・。

「一緒に寝るって言ったのも、毎日迎えに行くって言ったのも、ずっと翔くんといたいって思ったからだったんだけどね。
でも潤のとこに行ったほうがいいって翔くんが言うならしょうがないよね」

そして智くんは寂しそうにふにゃっと笑った。

それなのに俺は何も返す言葉が見つからなくて黙ったまま。
そんな俺に見兼ねたように智くんは続けた。

「翔くん、もう知ってるんでしょ？
俺が前にデザイナーしてたこと。
前にさ、いろいろ嫌なことがあって、もう別の仕事に就きたいって思ってたんだ。
でも最近またデザイナーとしてやり直そうかなって。
そしたら翔くんに心配かけなくて済むと思ったんだけど・・・」

言いながら智くんはベッドの隅に畳んで置いていたパーカーのポケットから一本の鍵を取り出した。

「はい」

それを俺に差し出す。

「今までお世話になりました」

智くんは深々とお辞儀をすると、俺と目を合わせることなく布団の中に潜り込んでしまった。

「智くん、俺は・・・」

「翔くん、もうそろそろ面会時間終わりだよ。
今日はもう帰ったほうがいいよ」

俺の言葉を遮るように布団の中から智くんのくぐもった声がする。

違うんだよ。
俺のところにいるよりも、あなたのことをよく知ってる松本さんのところにいるほうが、きっと智くんは元気になれるって思ったんだよ。

仕事のことも私生活のことも、そして智くんの過去にあった嫌なことだって松本さんは全部理解してる。
だからそっちのほうが安心だなって思ったんだよ。

あなたにとってそれが一番いいって思ってた。
そうすることで何もかも上手く行くんだって・・・。

でもそれは俺が勝手に一人で結論付けたことであって、そこに智くんの意思なんて全く存在してなかった。

結局、身勝手な俺は智くんの気持ちなんて置き去りにしたまま、彼のことを傷つけてしまったんだ。