月が微笑むから 3 【山】 (ページ21)

今日:7 hit、昨日:11 hit、合計:376,141 hit

118 ページ21

翌日、仕事を終えると足元に置いていたボストンバッグとスケッチブックを手にした。
今朝、家から持って来ておいた智くんの荷物だ。

そして彼の入院している総合病院に向かった。

静かにドアを開けて病室に入ると智くんはもう点滴をしておらず、上半身を起こして窓の外を眺めていた。

「智くん！」

俺の呼びかけに彼が振り返る。

「あっ！翔くんだ！！」

智くんが嬉しそうに俺の名前を呼ぶ。
もう熱は下がっているようで、あれだけ赤かった頬は元に戻っていた。

「良かった。
少しは元気そうになってて」

そう言いながらベッド脇の丸椅子に腰かけた。

「起きたら潤がいたからビックリした」

「俺が呼んだんだよ。
松本さん、いつも智くんのことを気にかけてたから」

「へえ・・・そうなんだ。
ごめんね、翔くんにも心配かけて」

「謝るのは俺のほうだよ。
約束すっぽかした俺のせいなんだから・・・。
ごめんね」

「俺はもう大丈夫だよ」

「そっか、良かった」

智くんは普通に話していたけど、少し怠そうだ。

そして俺が持って来た彼の荷物に気付いた智くんが不思議そうな顔をして聞いた。

「どうして俺のボストンバッグとスケッチブック持って来たの？」

どうやら智くんは退院後のことはまだ松本さんから聞かされてないようだ。

「あのね・・・智くん。
智くんが退院したら、松本さんが自分のうちに連れて帰るって言っててね。
俺もそのほうがいいと思うんだ。
松本さんは智くんのことよく知ってるみたいだし・・・。
だから荷物、持って来たんだよ」

すると智くんは目を大きく見開いて俺を見て、悲しそうな顔をした。

「ねえ、翔くんはいいの？」

「何が？」

「翔くん、前に俺に言ったよね？
あの家から出て行かないって約束してほしいって」

「それは・・・」

確かにあの時はそんなこと言ったけど・・・。
それはただ自分が寂しい思いをしたくないから衝動的にそう言ってしまったわけで。