月が微笑むから 3 【山】 (ページ18)

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眠っている智くんを残して病室を出た。
そして携帯が使用できるエリアまで歩き、通話ボタンを押す。

『もしもし』

すぐに不機嫌そうな声が耳に届いた。

「櫻井ですけど・・・」

『それは分かってますけど。
もう話すことはないって言ったでしょ？
いい加減、諦めてもらえませんか？』

「いえ、その話ではなくて。
智くんが高熱を出して入院することになったんです。
俺のせいで・・・」

『え・・・』

「彼の家族のこととか何も知らないんで、松本さんしか頼る人がいなくて」

『すぐ行きます。
今、どこにいるんですか』

病院名を告げると松本さんは慌てたように電話を切った。

病室に戻ると、やっぱり智くんは眠ったままだった。
さっきよりは頬の赤みが抜けたような気がする。
このまま熱が下がってくれればいいけど。

点滴を受けながら眠る智くんのそばに椅子を持って来てその寝顔を見下ろした。

いつも一緒にいたのに、栄養不良だったなんて俺は今まで何をしてたんだろう。
もっと無理してでも食べさせれば良かった。

その上、毎日迎えに行くと言ってくれたのに、すっかり忘れてたなんて・・・。

しばらくすると外の廊下をパタパタと走る足音が聞こえた。
その音が徐々に近づく。

きっと松本さんだ。

「智！」

勢いよく引き戸を開けながら、松本さんが声を上げる。
そして椅子から立ち上がった俺になんて目もくれず一目散に智くんのそばに駆け寄った。

きっと急いで来てくれたのだろう。
松本さんの髪と肩は雨で濡れていた。

「どうしてこんなことに・・・」

そう呟くと彼は睨むように俺を見た。

「さっき櫻井さん、電話で自分のせいだって言ってましたよね？
どういうことなんですかっ！？」

正直に智くんとの約束を忘れて松本さんと会っていたことや彼が栄養不良だったことを話すと、松本さんは「ふざけんなよな・・・」と小さく吐き捨てるように言った。