月が微笑むから 3 【山】 (ページ17)

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智くんを夜間救急に対応している総合病院に連れて行った。

「肺炎になりかけていました。
依然、高熱が続いているので今日はこのまま入院したほうがいいでしょう」

病室のベッドで点滴を受けながら眠っている彼のそばで付き添っていると、担当医が病状を説明しに訪れた。

「それから少し栄養不良の傾向もあります。
もう少し普段の食事に気を配ったほうがいいですね」

「そうですか・・・」

熱が下がれば退院出来ますよ、と言い残して医師は病室を出て行った。

程なくして事務員と思しき女性がやって来た。

「大野さんのご家族の方ですか？」

「いえ、僕は友人です」

「ご家族と連絡を取りたいんですけど、連絡先をご存じないですか？」

智くんは出会った時、自分には家族はいないと言っていたけど・・・。

「すみません、ちょっと分からないです」

「そうですか・・・困ったわあ」

事務員はしばらく困惑気味に考えあぐね、俺に言った。

「カルテ作成や入院手続きに、大野さんの保険証だけでもお借り出来れば助かるんですけどねえ・・・」

保険証なら智くんの財布の中に入ってるかもしれない。
気が咎めたけれどやむを得ないと思い、彼のジーンズのポケットに入っていた財布を開き、カード入れに入っている保険証を抜き取った。

悪いと思いつつ、その保険証を盗み見した。

氏名は大野智。
生年月日を見れば俺の一つ年上で間違いない。
そして、それは国保ではなく社保の任意継続被保険者用の保険証だった。

別に智くんと松本さんの話を疑っていたわけじゃないけど、やっぱり智くんが松本さんの同僚だったというのは本当の話のようだ。

事務員に保険証を渡す。

「今夜、付き添われる場合は看護師の詰め所に一言声をかけて下さいね」

彼女は安心したような表情でニッコリ笑った。