月が微笑むから 3 【山】 (ページ16)

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車を庁舎の正面玄関前に付けてもらい、転げ落ちるようにそこから降りた。

「あ！翔くんだ」

声のするほうに振り返ると、そこには智くんがビニール傘を差して立っていた。

すっかり消灯されて薄暗い石畳の上。
彼は玄関のひさしの下ではなく、雨風を凌げないそこに佇んでいる。
手にはもう一本傘を持っていた。

「どうしてこんな所に！」

「だって俺、携帯持ってないもん。
いつものとこにいないと、行き違いになるでしょ」

智くんはいつものパーカーを着ているだけ。
多分、その下には薄手のTシャツを着ているだけなのだろう。

「翔くん、お疲れ～」

智くんが手にしていた傘を俺に差し出す。
そして小刻みに震えながら笑った。

横殴りの雨のせいで彼は全身びっしょり濡れていた。
慌てて自分の着ていたコートを脱いで智くんの肩にかける。

「帰ってても良かったのに！」

「だって翔くん、今日、傘持ってくの忘れてたじゃん」

「ごめん、俺のせいで。

遅くなるって電話するの忘れてたから・・・。

寒かったよね？」

「大丈夫だよ。

でも、やっぱり携帯は必要だねえ」

よく見れば智くんの顔は真っ赤で、吐く息が異様に白い。

「もしかして熱があるんじゃないの！？」

「うーん・・・どうかなあ？」

彼の額に手を当てると、尋常じゃないくらい熱かった。
この大雨の中、二時間以上も突っ立っていれば、そりゃあ熱だって出るに違いない。

「病院に行こう、今から」

「えー、面倒くさい」

「いいからっ」

「だって病院・・・きら・・い」

「ちょっ、智くん！！」

智くんは膝から崩れ落ちるようにその場に倒れてしまった。