月が微笑むから【山】 (ページ5)

今日:2 hit、昨日:16 hit、合計:308,898 hit

4 ページ5

「とにかく俺は帰りますから。
チェーンは直してくれて助かりました」

俺が彼の手を振り解いてなおも帰ろうとすると・・・。

「なんだよ！せっかく友達になったのに！
そんなに言うなら、ここから飛び降りて死んでやる！！」

滑り台の手すりに手をかけて、跨ごうとしていた。

「あの・・・このくらいの高さから飛び降りても捻挫するか怪我をするくらいが関の山だと思いますけど・・・」

コイツ・・・アホなのか？
友達になった覚えもねえし。

「やっぱりそうだよね～」

大野と名乗る男は眉を下げて笑った。

「大野さん、本当に俺、急いでるんで」

俺がまた滑り台から下りようとすると「大野さんはダメ！」と一喝されてしまった。

「は？」

「智って呼んでよ。
せっかく俺と翔くん、友達になれたのに大野さんは堅苦し過ぎるでしょ？」

「はあ？」

「いいからほら！名字じゃなくて名前で呼んでよ」

彼がせっつく。

「智・・・くん」

彼の独特の雰囲気に押されて、半ば無意識にその名を呼んだ。

「親子丼！！」

突然、彼がそう叫んだ。

「はい？」

「翔くんが“智くん”って呼ぶの“親子丼”のイントネーションと同じだぁ」

両手で口元を覆って可笑しそうにケラケラ笑う彼。

「確かに親子丼と一緒だ・・・」

なんだか俺も可笑しくなって、釣られて笑ってしまった。

「俺、翔くんのこと、気に入った！
よろしくね、翔くん」

智くんが手を差し出した。

「よ・・・よろしく・・・」

俺もおずおずと手を出して、二人して握手した。

なんだ、これ。

気付けば見たかったドラマの最終回はとっくに終わっている時間。
やっぱり今日はツイてない日だ。