独立独歩のえいりあん 2 (ページ14)

今日:12 hit、昨日:14 hit、合計:17,380 hit

消えたあの子の話　シリウスページ14

冬が明けた少し暖かい春先の日のことだった。
俺たちが校内に仕込んだ悪戯がバレてマクゴナガルにこってりと絞られた後、俺は何となく独りで中庭へと赴いた。

柔らかな心地いい日差しが誰もいない中庭に差し込む。昼寝をするにはうってつけの時間帯と気温だ。退屈な授業に出るよりこっちでサボっていた方がマシだと感じ、俺は芝生の上に寝っ転がった。

横になり夢見心地にうとうとし始めた矢先のことだった。遠くの方から足音が微かに聞こえてくる。そしてそれは徐々にこちらへと近づいてきた。
思わぬ邪魔が入り、眉に皺が寄っていくのが自分でも分かる。

「チッ、誰だよ…」

気怠さに抗い、恨みがましく足音の方へ向けば、スケッチブックと画材を片腕に抱えたAがいた。

「なんだお前かよ」
「悪かったな私で。てかなに、サボり？」
「まあな。どうせ教科書読めば分かる内容だし」
「うわー出たよ天才発言」

呆れたように俺を一瞥したAは、ちょこんと芝生に座り込み、スケッチブックをペラリと静かに捲った。暫くすると紙にペンを走らせる音がする。何かをスケッチしているんだろう。

「何描いてんだ？」
「何だと思う？」
「……俺？」
「ンなわけあるかい」

ベシっとスケッチブックで頭を叩かれる。地味に痛い。

「桜だよ」
「桜ァ？桜なんか何処にもないだろ？」
「何処にもないから、描くんだよ」

そよ風が吹き抜け、木々をサァ、と揺らす。不意に見えたAの目は、どこか切なげだった。

「なんだソレ」
「思い出の桜が色褪せないうちに、形に残しておきたいんだ」
「へぇ。案外ロマンチストだな」
「そう？ホグワーツにいる間は日本の桜は見れないからなぁ。でもいつか本物の桜を見たいんだよねー」

桜は日本にとって特別な花というのは知っている。故郷のシンボルに等しいその花は、Aにとっても大切な故郷の思い出の一部なのだろう。

『いつか本物の桜を見てみたい』
その言葉は彼女がいずれイギリスから去ることと同義だ。いつまでもバカやってる学生というわけにはいかない。別れは必然的に訪れるものなのだ。

「お前は卒業したら、日本に帰るのか？」
「さぁ？日本に家はないし、それ以前に日本に帰るお金もないし」

「結局金だよね～」とAはボヤいた。
確かにAは孤児だ。ホグワーツを卒業したら、それこそこいつは独りで生きていかねばならない。そんな中で日本に帰るなんて、知り合いも誰もいない彼女からしたらとても困難であろう。