皇子山さん ページ8
「おはようございまー、って、あれ、中村さんドラマの撮影後ですか？」
「お、鋭いね〜Aちゃん」
「その髪型にスーツ、確か皇子山さんですよね」
「そ、皇子山でっす」
髪型もスーツもピシッと決まってるのに緩い。
頭上に掲げたピースサインがさらに緩さを醸し出していることを彼は知っているのだろうか。
「脚フェチでしたっけ、皇子山さん」
「そうそう。あ、もしかして毎週観てる？」
「毎週展開が楽しみで観てますよ」
「皇子山の活躍期待してね」と頭を軽くポンポンと叩かれる。
ドラマでのあの色気や大人っぽさ、厳しさなど、今の彼とは全く雰囲気の出し方。やはり中村さんはすごいなぁ、なんて頭の片隅で思う。
展開が面白いのも事実だが、芝居の勉強も兼ねて観ている。
まだまだ私も勉強不足だなぁ…、とため息を深く吐いた。
「なんだ、考え事か？A」
不意にピリッとした雰囲気と下がった声のトーン。
慌てて中村さんに視線を向けると、不敵な笑みを浮かべ、こちらを見下ろしていた。
こ、これは、皇子山さんの顔だ…！
「え、あの、な、中村さん」
「何慌ててんだよ、A」
否応無しに壁へと追い込まれ、両側に手を突かれる。え、なんで急に壁ドン…！？
顔と顔が急接近し、視界いっぱいに彼の顔が広がる。台本が用意された芝居なら恥ずかしさは我慢できるが、これは台本が全くない。
突然の彼の行動に、羞恥心やら照れやらで、身体中の体温が急上昇した。
「顔、真っ赤だな」
「う゛…」
ゴツゴツとした男らしい手が、指が、私の右頬をすりすりと優しく撫でる。
これは、完全に…________
中 村 さ ん に 遊 ば れ て い る ！！
「ちょっと！！私で遊ばないでください！！」
「おわっ」
居た堪れなくなって、思わず中村さんの胸板を精一杯の力で突き飛ばす。
私の行動を予測していなかった彼は、そのまま体勢を崩し私から離れた。
「私で遊んで楽しいですか？」
「Aちゃんの真っ赤な顔可愛かった」
「そんなことしてたらバチが当たりますからね…！」
「ごめんごめん」
悪気がなさそうな柔らかい笑みを見せる中村さんに、静かな怒りが沸々と湧く。
中村さんなんてタンスの角に足の小指ぶつかればいいのに…！！！！
そう思ってたらその夜自分が机の脚の角に足の小指をぶつけたのだった。解せぬ。
(Aちゃ〜ん、おはよ〜)
(……おはようございます)
(そんなあからさまに警戒しないで)
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作者名：れいとーこ | 作成日時：2019年7月27日 0時
