絵 ページ20
「んふふ」
「ずーっとその本見てニヤけてるね、Aちゃん」
幸せオーラが隠しきれてないその緩みきった表情。
「好き！」という雰囲気が溢れて止まらない、といったところだろうか。
先程からずっと『接吻』という絵で有名なクリムトの画集を見てにまにまと頬を緩ませている。
「かれこれ1時間見てるけど飽きないの？」
「全然飽きないです」
また画集に没頭し始めたAちゃん。
彼女の集中を邪魔するわけにもいかず、渋々話しかけるのをやめた。
話し相手がいなくなったから仕方なくAちゃん家の本棚に目を移す。
パースの取り方の本、デッサンの本、水彩や油彩の本、人体の構造の本、画集、服の資料、など、絵に関わる本がぎっしりと詰まっている。
あとは漫画本。有名な少年漫画が主に揃ってる。
今度は机に視線を移す。
油彩絵の具や水彩絵の具、細い筆や太い筆、筆洗、ペインティングナイフ、刷毛、絵の具で汚れたパレット、少し表紙に絵の具が付いたスケッチブック。
絵に関する道具が机上に乱雑に置かれ、机の横にはイーゼルが立てかけられている。何だかそこだけが小さなアトリエのような空間だった。
Aちゃんの趣味は絵を描くこと。撮影の休憩時間などでiP◯dにペンを走らせ何やら描いているほどだ。余程絵を描くのが好きなのだろう。
現に、俺も偶にクロッキーのモデルにさせられているし。
アーティストだなぁ。なんてしみじみ思う。
普段は油彩と水彩、どちらを主に描いているのだろうか。そんなことを考えていると、漸く画集を見終わったらしいAちゃんから声をかけられた。
「何見てるんですか？」
「んー、Aちゃんの机」
「そこ汚いんであまり見ないでくださいよ…」
「そう？なんかこう、アトリエ！って感じで俺はいいと思うけど」
「そうですか？ただ出しっぱなしの画材たちですけど」
不思議そうに言いながら、彼女はクリムトの画集を本棚へ戻した。
絵に関する本や道具を持っているのは分かったが、彼女がどんな絵を描くかはまだ俺は分からない。何だかんだ、俺は彼女の絵を一度も見たことがない。
そこで、俺の頭で良いアイディアが光った。
「ねね、Aちゃん」
「なんですか？」
「俺の似顔絵描いてよ」
目を微かに見開く彼女。
「ね、お願い」
「いいですよ」
割とあっさりAちゃんは似顔絵を描くのを了承してくれた。なんだ、初めからこうすれば良かった。
(じゃあじっとしててくださいね)
(はーい)
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作者名：れいとーこ | 作成日時：2019年7月27日 0時
