20秒 ページ1
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20秒間だけの
あの少し熱い手の温度。
キュウッと握られた
心地いい指の痛み。
ねぇ、覚えてる?
まだ再開発が始まる前の
シャッターだらけのアーケード通りは
絶好の隠れん坊場所で。
…
A「また俺がオニ〜?何秒?」
N「お前が弱すぎなんだよ!20秒。」
S「ねぇ智君、今日は帰る時ちゃんとバイバイってゆってから帰ってね」
O「言ったよぉ…」
M「言ってないよ〜こないだみんなで探しちゃったんだからね」
同じクラスの智君は先週気がついたらいなくって、俺たち一生懸命探して結局、
N「おばさんに言って警察に届けよう」
ってしっかり者のニノの一言で
智君の家にダッシュしたら
O「どしたの〜忘れ物ぉ〜?」
ってお姉ちゃんと半分このパピコをくわえて
のんびり玄関にやってきた。
まったく割り算苦手なクセに
パピコはきっちり割るのかよ
って翔君が激オコだったんだ。
…
A「じゃあ20秒ね〜いーち、にーい…」
郵便ポストに顔をくっつけてマー君が数え出す。
マー君がじゃんけんでいつも最初にチョキを出しちゃうのは
N「…シーね。」
ニノが最初に発見した俺ら4人の秘密。
念を押すようにウインクして
ニノが走っていき、智君は仲良しのマスターがいる喫茶店に入っていってしまった。
何でもお母さんの友達らしくて、智君は俺らの仲間内で唯一もうコーヒーが飲めるんだ。
さて、どこに隠れようかな…
そう思った瞬間に
ぎゅっ。
S「潤、いっしょに隠れよ。」
にんまりする翔君が隣りにいた。
20秒間。
駐車場の大きい車の陰で
俺と翔君はずっと無言だった。
いつも5人で、
めったに二人きりになんてならないから
何か言おうとしたけど、思いつかなかった。
A「おーい!どこだぁ」
学級会やホームルームではものすごくおしゃべりが上手な翔君も無言で。
でも、手は固く握られたまま。
…
もしあの時。
何か一言でも話せたら
いや。
ずっと翔君が好きだった。
そのたった一言がいえていたなら。
ねぇ、まだ僕の手はこんなに熱さを覚えてるのに
M「どこからこんな事になったかな…」
そう呟いて
俺は趣味の悪い結婚式の招待状を
封を開けもせずに
ダスターシュートへ放り込んだ。
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作者名:ゆみ
作成日時:2019年3月15日 5時