全部分かっていても ページ19
いつになく不機嫌な兄の背中を追いかけて、家の中へ入った。まだ誰もいないリビング。静けさがぎこちなく感じる。
エース兄は怒っているのか。それとも、心配しているのか…。
『エース兄…』
呼び掛けても返事はない。エース兄は、私に背を向けたまま、ドアの前で立ち尽くしている。
決まっていつもそうだ。何もかも全て分かっていて、何も語ってはくれない。自身の思いも。
ｴｰｽ「…A」
やっと振り向いたエース兄は、怒ってはいなかった。むしろ泣いているように見えた。涙は一粒も見えないのに…。
ｴｰｽ「あいつの事が好きなのか…？」
語尾が震えているのが分かった。眉は下がり、食いしばって口元が歪んでいる。…どうしてそんなにも辛そうな顔をしているの？
『エース兄…？』
ｴｰｽ「答えてくれ、A……トラファルガーが好きなのか？」
力加減も忘れて、私の肩を粗雑に掴む。そこには、いつもの冷静なエース兄の影はなかった。
掴まれた肩に鈍い痛みが走る。でもそれ以上に胸が痛んだ。目の前のエース兄が、今にも泣きそうな顔をしているから…
私は掠れて消えそうな声で、うん…、と頷く。
それが精一杯だった。
ｴｰｽ「…一人にさせてくれ…」
背中越しにそう言うと、ドアの向こうへ消えて行くエース兄。
私は自分の手首のブレスレットをなぞるように触れる。はめ込まれた二色の石が、どちらも哀しい色をしていた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
帰り道に出くわしたあの二人を、オレは無視出来なかった。とにかく引き離す事しか考えられなかった。
兄貴失格。そう言われても仕方ねェ。全て分かっていても、オレは止まれなかった。
ｴｰｽ「最低だ…」
自室に入ってすぐ、ドアにもたれてずり落ちるように座り込む。立っていられるほどの気力はもう残っちゃいねェ。
全部分かってた。Aがトラファルガーを想ってることくらい。今までずっと見てきたから。
それを全部、受け入れてたつもりだった。
いやずっと、気づかないフリをしていたかった…。
ｴｰｽ「ごめんな…A…」
顔の横で、ドアノブにかかった似顔絵が小さく揺れる。また警告だ。何度もこうしてお前が「妹」だと思い出す。
オレにかけられた呪縛。想いが隠せなくなる危険信号。
いっそあの日、似顔絵も燃えてしまえばよかった。
いっそオレが、
兄貴じゃなければよかった。
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ルイト(プロフ) - ゾロ好き星人さん» 長らく気付かなくて申し訳ありませんでした！コメントありがとうございます。温かいお言葉を頂けてとても嬉しいです。更新頑張りますね！ (2021年2月23日 20時) (
レス) id: 977386f903 (このIDを非表示/違反報告)
ゾロ好き星人 - すごくこの作品が好きです！更新頑張って下さい！ (2021年1月14日 14時) (レス) id: e826f147a7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ルイト | 作成日時：2020年12月18日 23時
