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455.橙Side ページ33

案内された個室
扉の前で待つように言われ
看護師さんは室内へ

チラリと見えたベッドから
思わず目を逸らす





トラウマから抜け出すのは容易ではない


彼女を永遠に失うかもしれない
そう目の当たりにしたあの日は


俺の心に

暗く
色濃く
深く

刻まれている





情けない自分にため息を落とすと
靴音を鳴らして近付いてきた安西先生が
俺を見てニコニコと手を上げた



ちょいちょいと手招きをして
向かいの空き室に俺を呼びんだ



「どんな話を聞いたのか、教えてくれる?」



状況に戸惑う俺に気付いてるからか
子供に話しかけるような
柔らかく優しい声と表情で言った





順を追って話していくと
先生は
うん…うんと微笑んで頷いている





その優しさに
自分の中の不安が溢れて視界が滲む


先生が俺の背中を撫でた事で
誰にもぶち撒けられなかった現状も全部
涙と共に開放した


側に居られないどころか
更に傷付けるような事ばかり起こって
どうしていいかわからないと

止まらない涙と共に懸命に声にする




「Aちゃんから聞いてた通り
 桐山君は優しくて温かい人だ」



そう呟いた先生の顔を見ると
相変わらずの優しい表情をしていた



「色々大変な事が重なったね
 辛かったね」



その言葉に更に涙が溢れる



「大丈夫、大丈夫だよ

 君の存在は、これ以上無い位
 Aちゃんの支えになってる」


「でも…ッ…何も出来ない…
 何が怖いんか…聞かれへんッ」


「そんなに自分を責めたらいけない
 そんな事、あの子は望んでない

 本人が言いたくない事を
 聞かずに側に居るのは
 紛れもなく、真っ直ぐな愛情だよ」





その言葉を聞いて
俺はやっと笑うことが出来た











涙を拭いて
先生と一緒に彼女の病室へ

点滴に掛けられた
クマのぬいぐるみみたいなカバーは
俺の緊張も和らげる





上半身を少し起こした体勢で
目を瞑る彼女


笑顔の看護師さんに促されて
点滴とは反対側にある椅子に座った




「目が覚めてあなたが居たら
 絶対喜ぶわよ〜!」


そう笑って2人は部屋を後にする




静かな部屋に
彼女の小さな寝息だけが聞こえている


手を握り髪を撫でる

この世で一番愛しい寝顔

静かで穏やかな時間


奥にある窓からは大きな木が見えて
薄く開いた隙間から
柔らかい風が吹き込んでいる





ここが病院やなかったら

最高やねんけどな



それでも



俺の部屋以外での
2人の時間は久しぶりで

なんだか少し嬉しかった

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作者名:向日葵 | 作成日時:2022年6月8日 10時

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