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448. ページ26

「俺な、まだ仕事残っとんねん
 もうすぐ出なあかん

 こんな時にゴメンな」





何一つ聞き出せてない

様子がおかしい彼女の
涙すら乾いてない

こんな状態で帰らすなんて無理や





「無理させてごめんなさい
 帰るね」


「アカン
 俺が戻るまで、ここで待っとれ」





明日は昼過ぎから
帰ったらいくらでも時間はある





「どんだけ早くても2時過ぎてまうけど
 必ず帰ってくるから
 一緒に寝よ?朝まで抱きしめたる

 久しぶりに一緒に寝たいねん」



でも彼女は首を横に振った
その動きで涙がパラパラと落ちる



「…帰る」


「アカン。ええか?約束や
 帰ったらアカン。待っといて?
 俺が一緒に居りたいねん」





ずっと俺には笑顔で全部隠してきた彼女が

初めて俺に見せた姿





淳太君にも流星にも言わずに
こんな強硬手段に出た





何があったんや


会えた嬉しさは瞬時に薄くなり
不安が遥かに勝る





彼女の髪や服から病院特有の匂いがする

うっすらではなく
ハッキリと

酒の匂いをかき消す程に





何か言われた…まさか病院で?


スウと背筋が寒くなる


俺は正直
彼女を助けたあの日の事が
少しトラウマになっとる


「変わっていく彼女の日常に
 出来るだけ
 寄り添ってあげてください」


安西先生の言葉通り
寄り添って行こうと思っていたのに

想像を遥かに上回るスピードで
状態が悪くなっていく姿は




正直怖い




不安でたまらなくなったら
彼女にビデオ通話をして
少しでも一緒の時間を過ごした


俺にできることは
これくらいしかない




今日も何があったんか
俺には話さないかもしらんけど

それでもええ

淳太君でもなく
流星でもない

俺を頼ってくれたんやから
全力で支える





ようやく視線を上げた彼女が
まだ涙をぼろぼろ流しながら口を開く



「照史…キスしてギュッてして」

「ん、ギリギリまでしよ
 でも10分じゃ絶対足らんから待っといてな
 約束やで」





約束という言葉を使えば
彼女は何が何でも守ろうとするから

俺はズルい





「お泊りの準備しに帰るんはええけど
 2時までに戻ってきてな
 寝とってもええから
 一緒にギュッてして寝よ」





静かに頷いたのを確認して
1ヶ月以上ぶりの触れるだけのキス



こんな時でも胸がいっぱいになって
うっかり泣きそうになった



時間ギリギリまで
甘くて少し塩辛いキスで
彼女の温もりを感じていた

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作者名:向日葵 | 作成日時:2022年6月8日 10時

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