423.橙Side ページ1
前にも彼女が唐揚げを届けてくれた事があった
その時も、このタッパーに唐揚げが入ってて
おにぎりもあった
「お弁当は口実！会いたかった！」って
飛びついて来たんよな、あの時は
思い出してフフフと笑いが溢れる
付き合いたての頃やな、あれは
彼女といつでも普通に会えて何処へでも行けた
ほんの1年半前の話なのに
とてつもなく遠い日々に感じる
今は会いに行くことも出来なくて
一緒に出掛ける事も出来ない
色んな意味で
俺達を取り巻く環境は大きく変わった
会いたい
Aに会いたい
車で数分の所に彼女は居るのに
目の前に彼女の手料理があるのに
何で本人が居らへんねん
他愛もない話しながら
美味しいなって言いながら
彼女の笑顔を見ながら
一緒に食べたかった
あの時と同じ気持ちなのに
あの時とは比べ物にならないくらい重く苦しい
こんな普通の事が出来ないなんて
俺達が一緒に居るのは
そんなに悪い事なん？
整理しきれない心が悲鳴を上げる
目の前の弁当を抱きしめるようにかかえて
一頻り泣いた
・
涙が落ち着いてから
彼女にビデオ通話をかけた
ちゃんと笑えるように
仕事前と同じスイッチを入れながら
コール画面を見ていると
パッと画面が切り替わって彼女が写った
「おつかれ様！おかえりなさい」
お風呂上がりかな
すっぴんでお揃いの眼鏡
電話越しだけど
また彼女からの「おかえり」が聞けて
冷えた心が温まる
「ただいま
今、電話大丈夫？」
「ん、大丈夫だよ」
ソファの背もたれに体重を預けて
少し疲れた顔しとる
「パジャマ着てるやん、珍しいな」
見たことない真っ青なパジャマ
部屋着はいつもTシャツショーパンやから
前開きのは初めて見た
「流星くんがプレゼントしてくれたの
誕生日だからって」
「流星が？」
「前にテレビでパジャマ特集しててね
その後にたまたま流星くんと会った時に
パジャマ欲しいなって言ってたのを
覚えててくれたんだって
私は忘れてたけどw」
「へぇー」
「超着心地いいよ…ずっと着てたい」
俺には「あれが欲しい」なんて絶対言わない癖に
流星にはそんな話しとるって
またくだらない嫉妬が俺の中にほんのり漂う
それでも
パジャマ姿になっても
予告なしの電話でも
彼女の右手薬指に光るリングが
俺の心をふんわりと温かく満たす
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作者名：向日葵 | 作成日時：2022年6月8日 10時
