165.あなたside ページ29
ひどい息苦しさで目が覚める
まだ暗い室内
音も空気も静まり返った様子から
夜は明けていない事がわかる
咳き込みそうになって
そっと温もりのある左側を見ると
体は仰向けになっているけど
顔は逆側に向いて
静かな寝息が聞こえる
起こさないように
ゆっくりベッドから降りる
酸素が足りなくて
目の前がぼんやりする
全館暖房が効いているとはいえ
ひんやりとした室内
足元に落ちている脱ぎ捨てられたパジャマと
目の前のスーツケース上に置かれた
ピルケースが入っているはずの鞄を
適当に掴んでリビングへ移動
仕切りの扉を静かに閉め
パジャマに手を通しながらソファに座る
ズボンを履き終わったタイミングで
胸を刺すような痛みが走る
久しぶりに来た
呼吸が止まるほどの痛み
ボタンを閉めようとしていた手で
胸元の服をギュウと握って痛みに耐える
「ｯ……ﾊｧ……痛…い……」
次第に強くなる痛みに
声が漏れてしまう
薬…鞄…ポーチの中…
分かっているのに
ソレを取る余裕が無い
早く飲まないと
早く抑えないと
救急車を呼ぶ事になる
それだけは絶対駄目
必死に鞄に手を伸ばすけれど
ファスナーを開ける事が出来ない
痛みが走る場所から手を離せない
片手で開けるのは難しい
その時
痛みからくる吐き気が一気に込み上げる
マズイ
慌てて寝室から遠いトイレへ駆け込む
よかった間に合った
何度も何度も押し上げてくる物を
全て吐き出した
何度吐き出しても液体しか出てこない
すでに何も出なくなっても
体は吐き出そうとするから
胃液が上がってきて喉がヒリヒリする
しばらくすると吐き気も落ち着いて
同時に痛みも少し引いた
ﾊｧﾊｧと荒くなった呼吸
体を起こすと同時に崩れ落ちて
ドアに体を預けた
さっきまで高級ホテル特有の
高そうな匂いがしていたトイレは
一気にアルコールの匂いに満たされた
うん、私にはこっちが似合ってるよ
1本100円の焼き鳥とか
平日半額ビールとか
お通しは枝豆とか
普通の居酒屋で飲んでる感じ
飲みすぎて吐いた時みたいで
ちょっと笑った
そんなアルコールくささも
徐々にかき消していく消臭機能
そして再び
高級感のある匂いに戻った
まだ痛みは走るけれど
なんとか歩ける
真ん中のボタン一つだけ止めて
ソファまで壁に手をついて戻った
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作者名：向日葵 | 作成日時：2023年2月10日 22時
