31.懐かしい ページ32
治療の効果が無かったわけではないけど
結果的に病状は悪化
彼女の心が折れてしまい
苦痛を取る事を優先する治療に変わった
「体力をつけたら
もう一度治療して欲しい
でも…もう頑張れとは…言えません…
あんな辛い思いをしたのに…」
涙を拭いて、続きを話し始める
苦痛を取ることを優先しているから
最近は眠る事が多くなってきているけど
元気な時はお兄さんと
近場へ出かけたりすることもあった
だから良くなって居るのかと思ったのに
「先日、医師から
『会わせたい人が居るなら早めに連絡してください』
と言われました」
それは
つまり
胸が締め付けられて
頬に温かいものが伝う
「ついに来たかって…
本当にショックで…
数日迷ってから妹に聞きました」
心配掛けたくないからと
家族以外
身近な友達にも
一切伝えていなかった彼女
お見舞いにも誰も来ないから
家族が周りに伝えるように言っても
心配掛けたくないと
頑なに拒否していた
「その日の夕方、メッセージが届きました」
お兄さんが俺に画面を向ける
『私の部屋にある黒い箱を開けて
その中に入ってる電話番号に掛けて欲しい
繫がらなかったら諦めるから
しつこく掛けないでね』
「箱を開けたら
一番上にこの付箋が貼ってありました」
靴が入ってる程のサイズの箱が
テーブルに置かれ
蓋をあけると
俺の電話番号と名前だけが書いてある
黄色い付箋が貼ってあったと
懐かしい彼女の文字も
俺の電話番号だけをメモしていた事実も
また胸が苦しくなる
「中から様々な写真が出てきました
恋人なんだろうと分かったけれど
彼が一度も病院に来たことはない
だから、この電話番号は
この人かと思っていたんです」
他にも色落ちした黒いキャップ
ワンピース
ピルケース
パジャマ等が入っている
翌日、本人に写真を見せると、
懐かしいと言って
微笑みながら泣き出して
何度も何度も写真を見返していた
少しの間病室を離れ、戻ってくると
いつのまに買ったのか
小さな手動のシュレッダーで
写真を刻んでいた
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作者名：向日葵 | 作成日時：2022年9月11日 3時
