28.兄 ページ29
久しぶりに聞いた名前に
時が止まる
返事をしない俺に
恐る恐る「もしもし?」と掛けられた声で
我に返った
「妹から、この番号に掛けて欲しいと頼まれました
中間淳太さんの番号でお間違いありませんか?」
驚いて呼吸が早くなっているのか
喉が張り付いたような感覚になって
声が上手く出ない
ゴクリと唾を飲み込んでから
静かに返事をする
「間違い…ありません」
「はぁ…よかった」と聞こえた声は
緊張感から開放されたのか
すごく柔らかくなった
とても小さな声で
「姉ちゃんの…兄貴?」と
信じられないと言う表情の流星に
数回頷いて答える
「あのA…
Aさんから、この番号…」
頭はフリーズして上手く動かないけど
Aが
どれだけ探しても見つからなかった
Aが
思いがけない方向から
連絡をしてきた事は分かったから
この繋がりを捕まえなきゃ行けないと
心がドクンドクンと鳴っている
この1年
どこにも痕跡が見つからなくて
もしかしたらもう…なんて
最悪の想像をしたこともある
そんなのは直ぐに頭から追い出して
幸せに過ごしていると
ポジティブな想像で上書きした
それでも不安が消えることは
無かったけれど
「頼まれた」
それはつまり…
それだけでホッとして涙が出そうやった
「はい、妹から聞きました
電話を掛けてほしいと」
「それで…
Aさんは今…」
聞きたいことが次から次へと
喉元まで上がってくるのに
言葉が上手く紡げない
「その事をお伝えしたくて、
お電話させて頂きました
可能であれば
お会いしてお話させて頂きたいのですが…」
今からでも大丈夫だと伝え
俺達がいつも使っている店を指定
1時間後に2人で会うことになった
仕事が残っている流星
「俺も行きたい!」と騒ぐから
「居場所も連絡先も聞いてくる
わかったらすぐ教えるから」と
宥めてから見送ると
楽屋にある全身鏡で
髪型と服装を丁寧に確認した
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作者名:向日葵 | 作成日時:2022年9月11日 3時