21.橙Side ページ22
二日酔いの体を引きずって
「おはよーさん」と楽屋のドアを開ける
真ん中にあるテーブルに
向かい合わせで
淳太君と流星が居るのが目に入る
そうか
2人は朝から仕事やったか
そんな事を考えながら
一番手前の椅子に手をかけると
いつの間にか隣に立つ流星が
地を這うような低音で
「照史…お前何考えてんねん」
と怒りを全身に纏って呟く
「はぁ？何の話やねん」
酒の残る体を早く椅子に沈めたいのに
引き止められて苛ついた
返事と表情がまるで
売られた喧嘩を買ったようになった
更に険しくなる流星の表情と
今にも立ち上がりそうな姿勢で
不安げに見上げる淳太君
俺…何かしたか？
流星にここまでキレられるような事
した覚えはない
そもそも
流星と合うのやって
1週間ぶりのはず
「○○って知っとるやろ」
流星が小声で呟く名前に
聞き覚えはあるけど
どこの誰やったか覚えていない
ドカリと腰を下ろしてから
そのまま答えようとすると
「2週間前、ソイツとやったやろ」
「はぁ？！」
「おい流星！」
唐突な言葉に普通に驚く
こんな話をメンバーとすることはない
特にこの2人とは
困惑しつつも
言われた内容に覚えがなくて
必死に記憶を辿る
2週間前…沖縄行った時か？
あの時はアルコールのせいで
寂しさが限界に達していた
その時、隣りにいたんは誰や
慰めてくれるのが嬉しくて
頬に触れる手の温かさにホッとして
…
…
あんま覚えてへんな
掠れた記憶を辿ると
確かにA以外の女の温もりを
僅かに覚えとる
同時に思い出した
何一つ満たされない虚しさ
「分からん
ハッキリ覚えてへん
それが何やねん」
ええ歳やねんから
別に酔っ払って一晩すごしたってええやんけ
なんの問題があんねん
反論しながらも
じわじわ蘇る記憶
誘ったんは相手やし
むしろ強引にされたんは俺
使うもん使っとったし
なおさら問題ないやんけ
「同一人物かわからんけどな
顔も名前も
いちいち覚えてへん」
そう正直に答えると
「顔も名前も覚えてない奴に
人生狂わされそうになったくせに
ノンキやのぉ」
巻き舌も加わって
更に怒りオーラを纏う流星
淳太君が困った顔をしながら
俺たちの側に立った
「あ゛？さっきからなんやねん
言いたい事があんねやったら
ハッキリ言えや」
口喧嘩なんて軽いものではない
ピシッと音がする程に室内の空気が固まる
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作者名：向日葵 | 作成日時：2022年9月11日 3時
