兄貴のお気に入りに恋をした【灰谷竜胆】 (ページ22)

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｢よし、帰るか｣

｢…あ、｣
｢？｣
｢大将、まだあのビルにいるか？｣
｢たぶんもういねぇと思うけど｣

｢バイク、置いてきちまったから戻るわ｣

｢ああ、そりゃ悪ぃことしたな｣
｢もうこんな全力疾走も乗りこみも付き合わねぇぞ｣
｢はは、わーってる｣

｢じゃあな、｣

少しずつ夜が明けて空が明るくなる。
まだ肌寒い風と春の余韻を残した匂いを感じながら歩くこと30分。

すっかり冷えきったバイクに跨り六本木へと向かった。

(いろんなことがあったな)
今日の強烈な記憶は忘れることはないだろう。

暴れまくってかいた汗が冷たく感じられ
もう1枚着込んでくれば良かった、と思ったとき。

(あ、メール…)

あの女、Aのことが脳裏をよぎった。

自分から送らないと繋がることもない。

(なんであんな強引に聞き出したんだ、俺は)

このままメールも送らず無視していても
きっとAは服だけ置いて姿は見せないだろう。
そこにバッタリ遭遇しなければ、それで終いだ。

｢俺はどうしたいんだ？｣

そんな大事にしてる服ってわけでもないが、
頭の端に張り付いた異物に気をとられるようだ。

腑に落ちない、こんな無名の感情に弄ばれてる俺はどうしたのだろうか。

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自問自答を繰り返すうちに自宅に到着。

ガチャ、

玄関に女の靴はない。

中に入ると珍しく兄貴がソファで寝ていて…
｢あ、おかえり竜胆｣

寝てなかった、起きてた。
こんな早くに起きてるって、どうしたよ。