好きって、言って欲しかった

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長い廊下を歩いていると、前から人影が見えた

帽子がトレードマークの、整った顔立ちの男性
中原幹部だ

「お早う御座います」

私が微笑んで挨拶すると、その人はあァ、と答えた

「お早う」

短く挨拶を返されて、あとはすれ違うだけ

軽く会釈をして歩き出すと、中原幹部はおい、と声を掛けた

「はい」

振り返ると中原幹部は顔を顰めて此方を見ていた

「手前、百田Aか？」

中原幹部の言葉に、私は少し驚いた


百田A

それは私の昔の名前だ

容姿が変わった為、名前も変えることにした
元の容姿がバレると、面倒な事になるから

でもまさか、昔の私を覚えている人が居るとは、思わなかった


「……いいえ？」

少し微笑んでそう返すと、中原幹部はチッと舌打ちをした


「…他人の事に口出しする程無礼じゃねェが、親に貰ッた顔だ、大切にしやがれ」

その言葉を聞いて、私は中原幹部を殴り殺 してやりたくなった

元からそんな整った顔の奴に何が分かると云うのだ
いや、逆に同情されても胸糞が悪い
お前になんか、分からないだろう
お前になんか、理解されたく無い


途轍も無い怒りが私を襲ったが、理性を保ち、静かに微笑んだ


「何の事でしょう？私は百田Aでは有りません」


私がそう云うと、彼はチッと舌打ちをし、此方を睨んだ

「……まァ良い」

中原幹部は此方に背中を向け、コツコツと歩いて行ってしまった



「………………貴方に、何が分かるの」

長い長い廊下に、私の声が響いて、消えた

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