それはまるで線香花火のようで〔橙〕

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「それじゃ、行くとしますか？」

「え？」





運転席から降りて
助手席のドアを開けたところから





「どうぞ？」





差し出された大好きな手

大好きすぎて

辛くて




手離そうと決意した手…





「…もぉー！とってもらわれへんとか、めっちゃハズいやん！」





躊躇する私の手をとって
隆平くんは





「足元、気ぃつけてな？」





そういって、私を思い出の海辺へと導く








.








群青色がどこまでも広がる


白く浮かぶ月が
どことなく辺りをぼんやりと白く煙らせて


ｻﾞｧ…ｻﾞｧ…と繰り返す波音





「…」

「…」





こんな沈黙も、懐かしい



あの頃は
波の音に感謝するくらい
聞こえてしまいそうな程ドキドキと高鳴っていた鼓動




今は…





「…懐かしいな」





沈黙すら、こんなにも心地いい
貴方との距離





「覚えてる？」




「…覚えてるよ」





少しだけ前を歩くのも
あの時と同じだね









「…よし」







立ち止まった隆平くんは
繋いでいた手をそっと離して、私に向き合った








「…A、ちゃん」






まだ…確かに私の中に残る
記憶がよみがえる







「………Aちゃんが、すき、です」







あの頃より少しだけ恰幅がよくなったけど



"私はそれくらいの方が好きだよ"
って伝えたら



"そーやってAが甘やかすからあかんねん"
って言ってたね






「僕と、付き合ってくれませんか？」






真剣な眼差し
こそからふわっと現れる笑顔

出来たりできなかったりのきまぐれ笑窪




懐かしい

覚えてるよ


こんなにもこぼれ落ちそうな程
私の中は

貴方で溢れている







隆平くんは、何も変わらないね…







変わったのは…

これから、変わってしまうのは…









「…ありがとうね、隆平くん。

でも、私…」







「A、…聞いて？まだ、終わってへん」







そういって、私の言葉を遮って







「Aは、わかってへん」

「…」

「俺がどれだけ自分勝手な束縛野郎かって事」

「……え？」







思いもよらない言葉に驚く私を見て
アハハって笑いながら






「ヒカリちゃんにはもう敢えて言う必要なかったし、彼女のおかげでさ、滞りなく話はつけてきたから」


「…話って、」






「ただな？…どうしても、あかんかった事があるんやわ…」





そういって
隆平君は、胸ポケットから小さく折り畳まれたものを取り出して



ｶｻｯと広げてみせた

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