原作開始 ページ17
月日は流れ、ダメツナと呼ばれるツナと、密かに男子から人気のあるAが一緒にいてもクラスメイトが特に疑問に思わなくなった頃、ついに物語が動く日がやってきた。
だが細かい日時なんて覚えていないAはいつもの様にHRが始まるまで好きなミステリー小説を読んでいた。
「下風さん」
「ん?」
声をかけられ、キリのいいところまで読んでから顔を上げる。
自分に声をかけてきた男子生徒が「田中」という名字だということはわかるのだが、下の名前が1ミリも思い出せない。
なんだっけ、と目の前のクラスメイトの名前を思い出しながらAは言葉の続きを待った。
「聞いた? ツナがパンツ一丁で笹川さんに告白したって」
「へえ」
短い言葉の後、Aは目の前の男に一切の興味をなくし、本に視線を戻した。
そんなことを言われたところでAにとっては原作始まったんだなくらいにしか思っていないのだ。
男はツナの好感度を落とすためにわざと教えたのだが、パンツ一丁で告白したツナを変態だと蔑むわけでもなく「へえ」とだけ返したAに男はぱちぱちと数回瞬きをする。
「え? 下風さん、ツナが変態とか思わないの?」
「何で? ツナはツナでしょ。そうやって人を落とすようなことをしてでも私と話そうとしている君よりずっと潔いと思うけどな」
本に視線を落としたままキッパリとAに言われ、男は肩を落とす。哀れである。
ツナが登校すると同時に剣道部の生徒に連れて行かれてしまう。調整役の彼女は見届けるために他の人と同じように道場の方へと向かう。
人込みを避けてきたからか、既に試合は始まってしまっていたし、ツナは死ぬ気モードになっていた。
A道場の外から静かに全てを見届けた。その手にはシャツとズボンがあった。
「ツナー」
「A! ど、どうしたの?」
「服、持ってきたの」
「ありがとう! 助かったよ!」
「笹川さんと仲良くなれたね」
「っ! う、うんっ!」
ツナの顔はほんのり赤くなっていた。
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作者名:うがつ | 作成日時:2022年9月18日 16時