恋は盲目愛は無作為【ヴィランズ】 (ページ6)

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５話ページ6

食事を終えて部屋に戻ると、マルフィはすでにベッドに横になっていた。

傷は彼の頬に生々しく残っていた。

あれが夢だったら、どれだけよかったことか。

月の光に照らされたマルフィの顔には涙のあとがあった。

「っ！」

いたたまれない気持ちになり、顔をそらす。

いつもなら、この程度の傷をおわせることなんて何とも思っていない。

だが、それは相手が赤の他人だったら、の話だ。

同じヴィランズに怪我をさせるなど言語道断だ。

「Aさーん。いらっしゃいますか？」

扉の向こう側からヴェールの声が聞こえた。

「どうしました？」

「これから、お風呂に入ろうと思うんですが、一緒にどうです？」

勿論、私は肯定の返事をして準備を始めた。

部屋から出ると、浴場へと向かった。

「ヴェール。先に入ってますね」

先に着替えが終わった私は一言声をかけてから浴槽に浸かった。

刹那、自分でも何を思ったか分からないが、体全体をお湯の中に沈めていた。

段々と息苦しくなり、早く酸素を吸わなければいけないと本能が告げる。

だが、そうしなかった。できなかった。

体が鉛のように重く感じられた。

―――苦しい。でも、こうしていればいつかは死ぬのかな

意識は朦朧としていたが、この状況に似つかわしくないほどに冷静な感情を抱く。

あと少しで窒息しようかというところで

私の体は上に引き上げられ、息苦しさから解放された。

「・・っはぁ、はぁ・・・・」

「何をしていらっしゃるんですか！？」

ヴェールの取り乱したような声が耳に届く。

数秒遅れて、やっと状況を理解した。

「・・やはり、何かあったんですね」

どうやら、勘のいい彼女は気づいてしまったようだ。

「マルフィの頬に傷をつけてしまいまして・・。

　さっき部屋に戻ったら、涙のあとがあったものですから。

　悪いことをしたな、と」

「そういうことでしたか・・。

　確かにご自慢の顔を傷つけられたとなると、

　ショックも大きいかもしれませんね・・・・。

　でも、彼は怒ってはいないと思いますよ」

「え？」

思いがけない言葉に素っ頓狂な声を上げる。

視線を上げると、ヴェールは穏やかに笑っていた。

「私が思うに、ですが、彼の涙は

　貴方に悪いことをしたいう気持ちからきた涙ではないかと思いますわ」

「・・少し気持ちが軽くなりました。ありがとう、ヴェール」

もし、それが本当だとしたら、優しすぎるんだよ。あの鴉は。