恋は盲目愛は無作為【ヴィランズ】 (ページ28)

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２７話ページ28

太陽の光の当たらない暗い場所に、一陣の風が吹き抜けた。

黒い尾のライオンが顔を上げる。

見つめる先には銀色の毛のハイエナがいた。

身体のところどころには赤い液体がついている。

「・・どうした、A」

「すみません、主・・これぐらいしか、思いつかなかったものですから」

荒い呼吸を繰り返しながら、Aは言った。

「また始まったか。しばらく治まっていたから

　心配ないと思っていたが、甘かったな」

苦々しげにスカーが呟いた。

Aは目を瞑ると、人間へと姿を変えた。

いつも束ねている髪は乱れ、その顔には苦悶の色が浮かんでいた。

「抑えようとは思ったのですが・・」

「いや、何も責めているわけじゃない。

　それよりも、活動に支障は出ないのか」

「出ない、と言えば嘘になりますね」

困ったように微笑むA。額には汗が滲んでいた。

スカーはしばらく考え込んだ後、

「そうか。なら、俺がアースラに伝えて薬の調合を頼んでおく」と言った。

それを聞いたAは瞳に安堵の色を映した。

「スカーには伝えたのか？」

「いえ、一度たりとも言ったことなどありませんよ。

　知っているのなんて、スカー様かアースラ様しかいないんじゃないでしょうか。

　まあ、マスターたちなら全員知っていてもおかしくはないですけど」

「恐らく、マレフィセントやジャファーあたりは察しがついているだろうな」

「ハデス様も、お見通しかもしれないですね」

ふふふ、と笑いながらそう言った。

スカーはそんな彼女を心配そうに見つめていた。

「じゃあ、もうホテルに戻ります。

　これ以上留守にすると、あの鴉に感付かれてしまいますから」

岩壁に身体を持たせかけながらAが言った。

「ああ。マレフィセントのところの・・確かマルフィ、だったか」

「ええ。あいつと同室なものですから・・では、失礼致します」

Aはそこを出るやいなやハイエナへと姿を変えた。

スカーのいた場所からは少し離れたところで、立ち止まると人間の姿に戻る。

再び手をかざし、空間の歪みを創り出す。

Aは荒い息を吐いて、歩き出した。

頭上では、暗い夜空に張り付いた星がまばゆいほどに輝いていた。