恋は盲目愛は無作為【ヴィランズ】 (ページ27)

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２６話ページ27

「やっと終わった・・・・」

激務を終え、ホテルへと戻る。

この時期は一日に複数回仕事が入るのなんてザラだ。

明日も一日中仕事だった気がする。

別に楽しいからちゃんと行くけれど。

「おかえりなさい。遅かったじゃない」

「ハーデス・・。いや、ジャックとアップルが同じだったものですから・・」

そこまで言えば大体のリクルーターは察する。

２人が喧嘩したことぐらい。

「やっぱり、あの２人は一緒にすると何かやらかすわね」

ハーデスは冷めた目で後ろで歩きながら喧嘩している彼らを見やる。

しばらくこめかみを押さえ呆れていた彼女だったが、

２人を引き離すべく歩き出した。

ハーデスも何かと言って面倒見がいいのだ。

ホテルの割り当てられた部屋に戻って、ラフな格好に着替える。

いくらリクルーターといえども、

いつもホテルの中であんな派手な格好をしているわけではない。

この後は何もないとなればなおさらだ。

「あ、マルフィ！」

「ああ。おかえり、A。

　マカロンは冷蔵庫に入れておいたから、夕食の後にでも食べるといい。

　一応、みんなには食べないようにと釘は刺しておいたよ」

「ありがと」

思わず頬が緩み、慌てて表情を元に戻した。

駆け足でダイニングへと向かい、食事を済ませた。

夕食を食べ終えた私は、マカロンを口へと運ぶ。

程よい甘さが口内に広がっていった。

これをマルフィが作ったとは到底信じられない。

「気にいってくれたようだね」

「・・まずまずだな」

わざとそう言うと、マルフィはおかしそうに笑った。

少々悪意の含まれた笑みをこちらに向ける。

「・・Aがそう言うのなら、もう作る必要はないか」

「嘘。おいしかった」

「うん。素直なのはいいことだよ」

マルフィは、満足そうに微笑んでその場を去っていく。

遊ばれているような気がしないわけではないが、

今は一刻も早く休みたかった。

浴場まで行き、さっとシャワーを浴びて自室に戻る。

もう寝ようと思い、ベッドに横たわった。

しかし、静かに瞼を閉じていても眠気は一向にやってこない。

ふと窓の外を見ると、黒い空に満月が浮かんでいた。

何かが内側から侵食しているような感覚に小さく舌を鳴らす。

抑え難い衝動が脳を支配していく。

自分の前に手をかざすと、そこの空間に歪みができた。

浅く、荒い自身の呼吸に気付かぬふりをして

その歪みへと歩みを進めていった。