恋は盲目愛は無作為【ヴィランズ】 (ページ12)

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１１話ページ12

「A！おはよー。

　ありがとうな。あれ、おいしかったで！」

リビングに入ると、ファージャが声をかけてきた。

「・・ありがとう」

普段、あまり感情の表現をしないハーデスも

穏やかな笑みを湛えて言った。

それがとても嬉しかった。

「いえ。あれぐらい大したことないですよ」

「凄いなぁ、Aは。

　なあ、マルフィ起こさんでもええの？」

「その必要はない」

背後から聞こえた声に、反応する。

「おや、ちゃんと自分で起きれたのか。偉いぞ」

ニヤリと笑いながら、目の前に立つ男を挑発する。

昨日までの良好な雰囲気はどこへやら。

いつもの風景に元通りだ。

「君の作ったやつだが、標準よりはよかったことは認めよう。

　だが、少々味つけが薄かったように感じたな」

「はっ。文句あるなら、自分で作ったらどうだ？

　第一、鴉は雑食だろう」

「ハイエナだって、腐肉や骨をあさるらしいじゃないか」

「好きで食べているわけじゃないんだが」

「それは、こちらだって同じことさ」

私は、自分より少し上の位置にあるマルフィの顔を睨みつけた。

見下ろされているのは気に食わないが、

それに関しては、どうしようもない。

「毎日毎日よく飽きないな」

部屋の前を通り過ぎたホックが呆れたように言う。

さっきまでいた２人も自分の部屋に戻って行ったようだ。

「昨日、寂しいと私に泣きついてきたのはどこの誰だったかな」

マルフィの一言が胸に突き刺さる。

今は誰もいないからいいが

これを聞かれていたらみんなにあらぬ心配をかけてしまう。

マルフィはそれを承知で言ったのだろう。

誰もいない、この瞬間を狙って。

「それはっ・・！」

「あの姿は哀れな小鳥を連想させるよ。

　ああ、君の場合、哀れな子猫か」

「っ・・ばか！もうお前なんて嫌いだ！大っ嫌い！！」

柄にもなく、声を荒げて部屋へと駆け出す。

部屋に逃げ込んでも同じことは分かっていたが、そこしかなかった。

ほかの誰にも悟られず、静かに過ごせる場所は。

「うっ・・ぁ、あ・・」

思わず口から嗚咽が漏れる。

かつての思い出が走馬灯のように脳裏を駆け巡り、

力なく床に膝をついた。

―――哀れ

同情の念は、時として何よりも鋭い刃となる。

マルフィは同情など持ち合わせていないが、

言葉として発せられるだけで嫌になってくる。

私は、こみ上げてくる吐き気を誤魔化すかのように腕に爪を突き立てた。