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『完璧な人なんていないんですから』


さっきはそう言って器用にお茶を入れる彼女にありがとうございます、なんて笑いかけてみた。






蝶屋敷から出ると冷たい木枯らしが吹いていた。屋敷付近に凛と咲く山茶花、すっかり地面に散らばった落ち葉が風に乗せてカサカサと鳴った。

草木たちはもう冷たい冬がすぐそこまで近づいていることを予期している。



この時期特有の空気感に思わず身震いをすると背後から温かさを感じた。どうやら背中に掛かっているのはふた周りも大きい羽織りのようで、包み込むような仄かな余熱を感じた。









「よォ」




門の前に立っていたのは不死川()だった。





「実弥…………………さん」


「今更さん付けすんな気色悪ィ」




いつものように無愛想に背を向けた。彼の傷だらけの手は長い間風にさらされていたようで紅くかじかんでいた。






「実弥、もしかして私のこと待っててくれたの?」



「あァ?なわけねェだろ」



そう言いながらも好物のみたらし団子を手渡してくれる彼は優しいのか何なのか。それとも、いつになく言動と行動が合ってないのは彼が天邪鬼(あまのじゃく)だからだろうか。私はいつになく綻びそうになる口元を必死に押さえた。





包みに入ったそれはまるで彼の体温を奪ったかのように温かかった。




「……ありがとう」


「おう」



「実弥は寒くないの?」



「寒くねェよ」




強がりながらもずずっ、と鼻水をすすった者が約一名。思わず笑いが零れる。



「かっこつけて寒そうな格好しなくてもいいのに。羽織り返そうか…?」



「てめぇ、生意気なこと言うようになったじゃねェか」









____わたし、ちゃんと笑えてる。





不思議と彼の前では自然に笑える気がした。確かめるようにも触った口元は弧を描いていた。勿論、いつもの取って付けたようなぎこちない笑い方ではない。引きつっても無ければ愛想笑いでもない。あれ、笑うってこんなに良いことだったんだ、と改めて思い出す。






(みんなの前でもこういう風になれたらな、)




私は限りなく望みの薄い願いを胸に東京の街を駆け下りた。

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実弥&左馬刻&勝己LOVE - はじめまして。実弥推しなので、読みました。凄く面白いです⸜(๑⃙⃘'ᗜ'๑⃙⃘)⸝ (2021年11月1日 12時) (レス) @page4 id: a5d4d80cb6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:久遠語り | 作成日時:2021年10月17日 19時

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