if 白虎と初めの黒い龍 (ページ7)

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1・終・白虎、祝われるページ7

ファーストキスの余韻が消えないままに家路に就いて、その際に松野とばったり遭った。
「なんか良いこと有ったのか？」
「…へ？」
「や、少女漫画だったら背景に花飛んでそうな雰囲気してたから」
会話で一気に現実に戻された李里はややはにかみながらこそこそと耳打ちした。
「今日、私の初恋が叶ったの」
「おめでとう！」
「ありがとう。…誰にも言わないでね」
おう！と眩い笑顔の松野は、わざとなのか無意識なのか口の前に指で✕を作る可愛らしい仕草をする。
「…松野君が男の子で良かった…」
「何でだよ」
「だって、私の恋人と面識あるもん。あなたが女の子だったら、きっと私は嫉妬しちゃうから」
「ロシアンブルーみてぇだな」
ひょっこり割って入った低音。振り向けば見覚えしかないウェーブヘアがあった。
「場地君！？居たなら言ってよ！」
「悪ぃ悪ぃ。楽しそうな話してっから」
犬歯を見せつけるように笑う場地にぷんぷん文句を言って、腰に手を当てる。
「ゴメンって言ってんだろ…ん？」
場地が謝りかけて言葉を止め、鼻を小さく鳴らして李里の匂いを嗅ぐ。そして、小さく真一郎くんとこの匂いがすると呟いていた。
「えっ、判るの！？」
「おう。…どんだけ一緒に居たんだよ。匂いがめっちゃ真一郎くんだぞ」
「え、ああ、くっついてたから…」
視界の端で松野がはわわ、とときめきに震えているような仕草をした。
「もしかして…その…？」
「…そうだよ。ナイショね」
「分かってるって」
人懐っこい大型犬のように首をかしげる場地に会話の意図を誤魔化して、用事を思い出したから、と別れてそそくさと二人の視界から外れた。ポケットから携帯を取り出して、恋人の親族でない方の友人に荒ぶる感情をメールで送信する。友人からの返信はすぐに来た。
『落ち着け。
お前の恋人はどんな奴だ？親友を任せるに値する人物なのか知りたい』
『親友と言ってくれて嬉しいよ。
私の好い人は、デリカシーをどこかに落っことしてきたみたいな人だけどとてもいい人だよ。知り合って三年目で、互いの家族と面識がある。好きも嫌いも、金銭感覚も、距離感ももう測れている人。バイクショップを経営していて、たくさんの人に慕われているよ。そして、私の初恋の人なんだ』
『何か相談事があれば言え。
初恋、おめでとう』
『ありがとう。大寿さんが居ると心強いや』
携帯を閉じて、息を吐く。淡々とした文字から浮かぶ友愛に、興奮で乱れていた感情がゆっくりと凪いでいく気がした。