5・フライングな誓い ページ22
専門学校在学中からこつこつと知名度やら何やらを上げて、卒業後はすぐにでも働けるような状態にしておいたブランド。今日、専門学校を巣立つ李里は、すぐにCEOになるのだ。
恙無く卒業した李里は、卒業式会場のすぐそこまで迎えに来たバイクの人物に頬を緩めた。最愛の恋人で、婚約者。エンジンを止めてヘルメットを脱いだ彼に飛びついた。30代に突入したとは思えない体幹でしっかり受け止められる。
「お帰り。ずっとこの時を待ってた」
「私も…」
足が浮く程強く抱きすくめられて、少し苦しい。でも、それが嬉しかった。首に手を回して、獣が愛情表現をするように頬を擦り合わせる。そこからそっと地面に下ろされて、両手を聢と握られた。懇願のように、引力の強い目が伏せられた。
「長かったな。入籍しよう。オレと、この先の未来を、辛いときも楽しいときも一緒に生きてください」
「…はい。一生離れません」
同級生になっていた三ツ谷の「おめでとう」の声を皮切りに、口笛やら祝福の声やらが上がる。真一郎の表情が何かワルいことを思い付いたときのものになっているのを見て少し後ずさりそうになる。それを許さないとばかりに肩を掴まれて引き寄せられ、口紅を乱すようにくちづけられた。触れたのは一瞬。しかし、色の濃い口紅が真一郎の薄い唇に付着したのが遠目にも分かったのだろう、途端に上がる黄色い悲鳴。
「真一郎さん、見せつけるの好きなの？」
「当然。オマエはオレのヨメだから、他の誰にも狙われたくないし目を付けさせたくもない。牽制も当たり前じゃねぇか？」
「…嬉しいよ。けど、」
胸ぐらを掴んで顔を下げさせ、側頭部に手を添えて思い切り噛みつくようにくちづけた。きっと完全に口紅は落ちてしまっただろう。でも、それで良かった。
「真一郎さんは私のダンナなんだから、私も見せつけて良いよね」
「…はは、」
すり、すり、と背中を睦事のように撫でられる。後で目一杯抱くから、明日の予定はキャンセルしといてな。と掠れた低い声で吹き込まれた。
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作者名：契 ゐと（元 いときち丸） | 作成日時：2023年11月6日 15時
